植食性害虫は、寄主植物が誘導する食害抵抗反応を抑制することで、食害効率を向上させることが知られている。近年、害虫唾液内に生息する共生微生物が寄主植物内シグナル伝達経路に作用し、害虫抵抗性を低下させる可能性が示唆されているものの、唾液内共生菌によるエフェクター作用の分子メカニズムは理解されていない。そこで本研究では、広食性農業害虫であるハスモンヨトウ幼虫を用いて、植物の抗虫防衛機構の制御に関わる唾液内共生菌の単離を行い、その作用機序解明を目指した。昨年度はハスモンヨトウ幼虫唾液内共生菌を複数種単離することに成功し、その中の1種(Staphylococcus epidermidis)がシロイヌナズナのジャスモン酸シグナルを抑制する活性を持つことを報告した。本年度は、まず他種の共生細菌における食害応答の抑制活性を解析し、多様な共生菌が協働して寄主植物の防衛反応を制御する可能性を評価した。しかしながら、他種共生菌によるシロイヌナズナ内シグナル伝達経路へのエフェクター作用は観察されなかった。さらに、共生微生物が寄主植物内のMAMP/HAMP受容認識システムに作用することで、下流のホルモン伝達機構を調節し、食害応答を阻害しているのかどうかを調べるために、複数種のエリシター受容体様キナーゼ(RLK)変異体に唾液および共生細菌を添加し食害応答を解析した。しかしながら、これら変異体において誘導された防御応答は野生株と同レベルであったことから、共生菌は既知の病原菌認識メカニズムとは異なるシグナル系に作用することで、植物内シグナル経路を制御している可能性が示唆された。
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