研究課題/領域番号 |
20K15880
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研究機関 | 龍谷大学 |
研究代表者 |
佐藤 安弘 龍谷大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (10777949)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 生態遺伝学 / QTLマッピング / 動植物間相互作用 |
研究実績の概要 |
本課題開始前に、研究代表者らは植物個体間の相互作用を考慮したゲノムワイド関連解析(GWAS)を開発した(Sato et al. 2021 Heredity)。初年度は、1遺伝子座-2対立遺伝子の量的遺伝子座(QTL)モデルに着目して、ヘテロ接合体の形質値を近似する方法を発案した。まず、先行研究のGWASモデル(Sato et al. 2021 Heredity)をQTLモデルに拡張することで、植物個体間の相互作用を考慮したQTLマッピングの手法を開発した。次に、シミュレーションによって原因QTLの検出力を評価したところ、完全な自殖集団には劣るものの、ヘテロ接合体が多く含まれる集団(F2集団など)でもQTLを検出できることが明らかになった。加えて、シロイヌナズナArabidopsis thalianaの近交組換系統とキスジノミハムシPhyllotreta striolataを用いて虫害データを新たに取得し、開発したQTLマッピングの手法を実データに適用した。以上の成果は原著論文1報として発表されている(Sato et al. 2021 G3)。初年度に開発したQTLマッピングの新手法はRパッケージの形式でCRANにも登録されている。 ヘテロ接合体を考慮することで植物の最適な空間配置がどのように変わるのかも、シミュレーションによって検討を進めている。GWASモデル用に構築したシミュレーション(Sato et al. 2021 Heredity)にヘテロ接合体を考慮し、メンデル遺伝に基づいて各遺伝子型の推移確率を修正した。平衡状態においてヘテロ接合体が出現する以外、少なくとも現時点では定性的な結果は従来と変わっていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
成果物のみで評価すれば、初年度から本課題に関わる原著論文を発表することができたため、おおむね順調に進展したと言える。しかしながら、過去数十年まで遡って関連研究を調査した結果、本課題の理論的側面のいくつかは既に集団遺伝学の分野で解析されていた。当初の想定よりも理論的に解明すべき内容が少ないことを考慮すると、今後の見通しはやや悲観的である。加えて、コロナウイルスの拡大によって学会を通じた成果発表の機会が当初の予定より少なくなりつつあることも、今後の見通しに負の影響を与えている。
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今後の研究の推進方策 |
「植物の」と銘打って始まった本課題であるが、空間スケールの見方を変えることで植物以外にも拡張できる可能性がある。例えば、個体相互作用の有効範囲をサブ集団全体と捉えれば、植物のような固着性生物でなくとも、ケージ内で飼育された動物でも良い。このような視点から、個体間の相互作用を考慮したGWASを動植物問わず使えるよう拡張を試みている。今後は空間スケールの見方を変えた場合に、どのような形で多様性効果が生じるかに着目することで、本来意図していた遺伝子型間相互作用と多様性効果の関係を解明していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
他課題によるエフォート制約の問題で申請当初から初年度の額を2-3年度より少なく計上していた。さらに、当初予定していた数値シミュレーションを進めようとしたところ、先行研究によって解析的に解かれていることが判明したため、クラウドサーバーによる大規模計算を見送った。新型コロナウイルスの影響により当初計画していた出張を全く行うことができなかったため、旅費も執行できなかった。次年度に繰り越した予算は、現在執筆している論文の英文校閲やオープンアクセス化のために使用する。
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備考 |
原著論文1報(Sato et al. 2021 G3)に付随してR言語のパッケージを開発し、Rの公式webサイトに登録した。
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