開花植物は我々にとって最も身近な植物の一つである。開花植物は重複受精と呼ばれる複雑な繁殖様式を持っており、これが開花植物の多様性につながったと考えられる。特に、開花植物は胚乳とよばれる3倍体の器官を有しており、これが母体と種子の間の資源のやりとりを媒介する。この胚乳は、自分では成体となれないことから、利他的な性質を有していると考えられる。しかし、この胚乳がどうして3倍体で安定して存在しているのかは完全には理解されていない。 本研究では、開花植物の複雑なゲノム構造を解明するための理論研究を、特に血縁選択という観点から実施した。特に、自殖・種子散布・花粉散布という3つのプロセスが開花植物の血縁構造に及ぼす影響を明示的に数理モデルで表現し、進化的に安定な状態を調べるべく、解析を実施した。 その結果、血縁関係を媒介するパラメータは、開花植物の進化に対して、非常に重要な影響を有していることが明らかとなった。これら研究をさらに進めることによって、以下のような発展が考えられる。まず、顕花植物という最も身近な生物の基礎科学的情報を蓄積できる。また、従来の進化モデルをゲノム対立などの複雑な相互作用に拡張した、「植物らしい」理論を確立できる。更には、我々が普段、食卓で口にする農作物は胚乳由来であるものも多いことから、本研究の遂行によって、農業や育種の知見にも貢献することが可能となる。たとえば、効率よく胚乳を大きくするための技術の発展にもつながるかもしれない。
|