研究課題
旧石器時代の遺跡は列島全体で数千ヶ所と推定されているにもかかわらず、旧石器時代人の姿はほとんど分かっていない。少数の旧石器人骨しか発見されていないことが原因である。ヨーロッパと比較して温暖多湿なアジアの気候や、酸性土壌に覆われた日本列島では古人骨の残りが悪く、かろうじて残った古人骨に含まれるDNAは断片化が進んでおり、DNA分析は困難を極める。しかし、日本列島人の系譜を辿るためには、旧石器時代人のゲノム情報、そして、その後に続く縄文時代人との遺伝的関係を明らかにすることは不可欠である。旧石器時代の港川1号人骨をもちい、ミトコンドリアゲノム全長配列を決定することに成功した研究成果について、並行して進めた縄文時代ならびに弥生時代の遺跡から出土した複数の古人骨に関するミトコンドリアゲノム配列、さらに、2,000人以上の日本列島人集団を合わせたミトコンドリアゲノム配列との比較解析をおこない、その結果を国際誌上で発表した(Mizuno et al. 2021)。多次元尺度法や様々な系統樹で配列同士の類似性を見ると、港川1号人骨のミトコンドリアゲノム配列は、現代日本列島人集団の祖先のグループに含まれるか非常に近いものだということが示された。一方、縄文時代人骨ならびに弥生時代人骨のミトコンドリアゲノムはお互いに異なるタイプでありながらも、共に現代日本列島人集団のミトコンドリアゲノムを構成しているタイプであった。このことから、港川1号人骨は、広義には現代日本列島人集団の祖先のグループに含まれるが、縄文時代、弥生時代、現代の集団の直接の祖先でないことが示唆された。これらの研究成果を発展させるために、港川人骨の核ゲノム分析、さらに他の旧石器時代人骨のミトコンドリアゲノム分析を進めている。
3: やや遅れている
予想はしていたが旧石器時代人骨に残存するDNAの残存状態は、並行して進めている早期縄文時代人骨と比較しても極めて悪かった。このため、得られたDNAをもちいて試行した次世代シーケンスランによって得られた配列データ中に含まれる人骨由来のリードの割合は低く、多くの大規模シーケンスランが必要であった。
今後は数理解析を主体に進めていく。数理解析では、現代アジア人類集団に加え、アジアの同じ時代の古人骨の核ゲノム情報を含めて、主成分分析・ADMIXTURE解析・f3解析等をおこない、旧石器時代人とその後の縄文時代人との遺伝的関係を明らかにすることで、日本列島人の系譜を古人骨ゲノムから辿る計画である。
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Scientific Reports
巻: 11 ページ: 1-11
10.1038/s41598-021-91357-2