研究課題/領域番号 |
20K15892
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
柏木 有太郎 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 助教 (90840893)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | シナプス / 超解像顕微鏡 |
研究実績の概要 |
記憶や学習といった脳機能には、シナプスが新たに作られ、外部からの刺激によって可塑的に変化し、また数年以上もの長期にわたって維持されることが必要である。シナプスが変化する過程で、スパインの頭部体積の増減やシナプス小胞の増減に関連して軸索末端の形態変化が起こる。またスパイン頭部や軸索末端から微細な突起が伸びだす様子も知られており、両者が接触を介して複雑な情報交換をしていることが示唆される。シナプスとその近傍で起こる複雑な細胞間相互作用を明らかにし、その機能的な意義を生体で検証することは、記憶や学習といった脳機能を理解する上で重要な問題である。 本研究では、シナプスの可塑性と安定性に関わる分子メカニズムの解明を目指し、興奮性シナプスを構成する樹状突起スパインと軸索末端を従来の光学顕微鏡の限界を超えた分解能で同時にタイムラプス観察する基盤技術の確立を目的とする。さらに、より生体内に近い状態でのシナプスの形態と動態を高い分解能で観察することを目指す。これらにより、記憶・学習の細胞生物学的な構造基盤の理解を進める。 昨年度までに培養神経細胞のスパインと軸索末端を同時に高分解能で観察する基盤技術が確立されたので、令和3年度は生きた動物においてシナプス可塑性が起きたシナプスをナノスケールで形態情報を取得するための技術基盤の構築を優先的に進めた。新たに膨張顕微鏡法を導入し、この技術とこれまで開発を進めたスパインの三次元形態解析技術との組み合わせを行った。膨張顕微鏡法を用いることで、これまでより厚みのある標本でスパインの形態解析を実施することが可能になった。次に海馬錐体神経細胞を標識する遺伝子導入技術、アデノ随伴ウイルスによる標識または子宮内電気穿孔法による標識をそれぞれ試し、海馬CA1-CA3領域の錐体細胞を疎に標識する条件を見出し、膨張顕微鏡法によるスパイン形態解析を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年までに確立した組織切片におけるスパインの三次元形態解析技術を更に発展させ、膨張顕微鏡法を導入することでこれまでよりもさらに高い分解能でスパイン形態を撮像・解析することに成功した。また複数の遺伝子導入技術により海馬錐体細胞を蛍光標識し、蛍光標識した細胞の樹状突起スパインまた軸索末端の構造を三次元的に撮像することが出来た。 これらの結果から研究は概ね順調に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
膨張顕微鏡法を用いたスパイン形態解析技術の基礎を確立したので、今後はこの手法をより厚い組織標本に適応しその技術的な限界を探索する。確立した条件を用いて、海馬神経回路の大規模な回路のトレースを実施する。また膨張顕微鏡法を分子の局在解析に応用する。スパイン形態とシナプスマーカー分子を合わせて解析することにより、スパイン形態の多様性とシナプス機能の関係を理解することを目指す。 記憶学習で活性化する神経細胞のスパイン形態解析を目標とし、記憶学習の行動課題を実験系に導入し、活性化した神経細胞を特異的に標識する実験を行う。活性化した神経細胞集団の標識と、前述した膨張顕微鏡法による神経回路解析技術を組み合わせ、記憶に関連した神経細胞におけるスパインシナプスの形態解析を進める。研究が順調に進んだ場合は、より厚い組織標本における広範な神経回路の解析に着手し、記憶関連神経回路の大規模かつシナプスレベルでの可視化を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルス感染拡大により現地で実施される予定だった学会(第127回日本解剖学会総会・全国学術集会)がオンライン開催となったために次年度使用額が生じた。次年度使用額は実験に関わる消耗品費用として使用する計画である。
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