本研究では、シナプスの可塑性と安定性に関わる分子メカニズムの解明を目指し、興奮性シナプスを構成する樹状突起スパインと軸索末端を従来の光学顕微鏡の限界を超えた分解能で同時にタイムラプス観察する基盤技術の確立を目的とした。さらに、より生体内に近い状態でのシナプスの形態と動態を高い分解能で観察することを目指した。これらにより、記憶・学習の細胞生物学的な構造基盤の理解を進めた。 令和5年度は、前年度までに確立した手法を組み合わせ、主に記憶関連神経細胞のスパインシナプスをナノスケールで形態解析を進めたた。具体的には、恐怖刺激誘導後30分で最初期遺伝子発現の有無で海馬錐体細胞を分類してそれぞれのスパインシナプスを超解像顕微鏡手法により撮像した。次に、エングラム細胞同士のシナプスを同定するために、海馬CA3錐体細胞の軸索をミリスケールで追跡した。
研究期間全体として2つの大きな目標を達成した。1. 樹状突起スパインと軸索末端の動態を高い時空間分解能で観察する基盤技術を確立した。これにより複数の神経疾患モデルのシナプスの微細形態と動態を解析した。2. 記憶・学習の細胞生物学的な構造基盤を理解するために透明化手法を用いて生きた動物においてシナプス可塑性が起きたシナプスのナノスケールでの形態情報を取得するための技術基盤を確立した。超解像顕微鏡手法による組織標本の観察技術を海馬の神経回路追跡に適用した。 本研究開発により、生きた神経細胞のシナプス頭部で見られるナノスケールの構造をマウス脳組織でも解析することが可能になり、疾患モデル神経のシナプスを培養細胞と脳組織の両方でナノスケールで解析できた。今後の研究では、記憶で活性化されたシナプスの可視化を達成する遺伝子工学的手法を用いて、記憶の構造基盤の理解と分子メカニズムの解明を更に進め、疾患との関わりを追求していく。
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