本研究課題の目的はセロトニンがどのような学習を制御し、個体の性格傾向を形成しているのかを明らかにすることであった。これまで申請者はセロトニンが側坐核スパインシナプスの可塑性を増強することを発見しており、特に側坐核領域のセロトニン動態に注目した。 2021年度は生体マウスにおいて側坐核セロトニン動態をリアルタイムに計測する実験系の構築を試みた。具体的には共同研究者から提供を受けたセロトニン濃度依存的に蛍光強度が変わるセロトニンセンサーをAAVを用いてマウス側坐核の神経細胞に発現させ、ファイバーフォトメトリー法を用いて蛍光強度の測定を行った。セロトニン再取り込み阻害薬の全身投与により、セロトニンセンサーの蛍光値が上昇したが、生理食塩水の全身投与では蛍光値の上昇が起こらないことを確認した。 セロトニンがどのような学習行動中に変動するのか探索するために、マウスの行動課題の構築を行った。左右2つのノーズポーク穴があり、ノーズポークするとそれぞれの穴から確率的に報酬が得られる課題を構築した。先行研究からマウスは左右のうち報酬確率が高いほうを学習し、選択的にノーズポークを行うことができることが知られている。さらに、左右の穴の報酬確率の高低を非明示的に逆転させると、マウスは試行錯誤の上で報酬確率の高いほうの穴を学習することができる。申請者はこのような学習に側坐核セロトニンが関与している可能性を考え、このような課題を構築した。今後この課題とセロトニンセンサーのフォトメトリー法を組み合わせることで学習中の側坐核セロトニン動態を調査することが可能と考えられる。
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