研究実績の概要 |
脳梗塞は、脳血流のみならず脳脊髄液(髄液)の流れも停滞させる。これまで研究代表者らは、髄液の流れを生み出す機序に、脳の水チャネル分子であるアクアポリン4(AQP4)が関与することを報告し、脳梗塞発生後1~2時間にはAQP4の標識が減少し始め、髄液の流れが滞留し損傷が拡大することを明らかにしてきた。しかしながら、脳梗塞によってAQP4の標識が減少する詳細な分子機序は解明されていない。 一方、研究代表者らは、アドレナリン受容体を阻害することで、脳梗塞後でもAQP4の標識を維持できることや、過剰の細胞外カリウムイオンの排出を促進することを報告してきた(Monai et al., Sci. Rep., 2021)。しかしながら、アドレナリン受容体がどのように、AQP4の標識標識変化に寄与するかは明らかになっていない。本研究では、AQP4の変化が、アストロサイト足突起からの非局在化であると予想し、それを正しく評価する方法を確立し、AQP4の非局在化の機序の解明に取り組んだ。 まず、レーザーを用いた光血栓法によって、大脳皮質に局所的に脳梗塞を引き起こしたマウス脳のAQP4と血管内皮細胞およびアストロサイトの細胞質(グルタミン合成酵素, GS)を免疫組織化学染色の手法を用いて共染色することによってAQP4の非局在化を評価する方法を提案した。 提案した解析法を用いた結果、脳梗塞を起こさなくても、βアドレナリン受容体を薬理学的に作動することによって、3時間後に優位にAQP4が非局在化することを見出した。この際、アストロサイトのマーカーであるGFAPには顕著な発現変化は生じなかったが、ミクログリアのマーカーであるIba-1の発現が亢進し、ミクログリアの形態が顕著に変化することを見出した。 以上の知見は、脳梗塞後のAQP4の非局在化にミクログリアが関与する可能性を示唆している。
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