研究実績の概要 |
本研究の目的は雄マウスが雌マウスに対して歌う求愛歌に対する聴覚中枢の反応領野を解析し、ヒトでいうところの言語知覚野に相当する大脳皮質がマウスにも存在するか調べることである。 フラビン蛋白蛍光観察は、雄の求愛歌に応ずる皮質反応の半球優位性も併せて検証するために両側の聴覚野を同時測定するシステムを構築し、両側同時測定に必 要なレコーダーソフトと解析ソフトの開発は完了し、2021年度には8-10週齢の雄マウス7匹、雌マウス8匹を用いて雄の求愛歌に対する聴覚野反応を両側同時に測 定した。聴覚野の6亜領域(A1,A2,AAF,DA,DM,DP)別に反応ピークの左右差検討を行ったところ、若年の雄、雌はともに明らかな左右差がないことが判明した。 2022年度には交配出産を経験している雌マウス(経産マウス)11匹と交配出産を経験していない同週齢の雌マウス(未経産マウス)5匹を同様の実験を行ったところ、経産マウスのAAF,DA,DM,DPの4領域で左半球の反応が有意に増強していることが判明した。 ヒトでは右利きの95%で言語野(Wernicke野/Broca野)は左半球に存在していることが知られているが、マウスにおける言語的コミュニケーションツールと言われるUSVsも左半球優位に知覚されている可能性がある。マウスは言語を持たない動物とされているが、マウス間のコミュニケーションにおいてヒト言語野と共通する左半球優位性を見いだせたことは非常に大きな成果であり、今後英文論文化をすすめていく方針である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
in vivoイメージング画像のデータ収集は令和4年度末までに終えており、Ratio Imaging Analyzerを用いたイメージング画像処理と聴覚野の6つの亜領域(A1、A2、AAF、DA、DM、DP)において有意差検定を行った。求愛歌刺激に対する経産雌マウスの4つの亜領域(AAF,DA,DM,DP)での聴覚応答が同週齢の未経産雌マウスに比して左半球優位であることを示すことができた。この研究成果を福岡市で開催された第124回日本耳鼻咽喉科学会・頭頸部学会総会学術講演会で発表(口演)し、一定の評価を得ることができた。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度までに実験データの収集がほぼ終了していたことから、必要な物品はマウスの飼育、麻酔や手術に使用する試薬類など消耗品のみであった。旅費以外の支出が想定よりも低く抑えられた結果、次年度使用額が生じた。 次年度は国際学会(34th POLITZER SOCIETY MEETING,13-16 October 2024,Roma)での発表を予定しており、旅費として使用する予定である。英文プレミアム校正料、論文投稿料も必要とである。査読結果によって、追加実験の必要が生じる可能性を想定し、C57BL/6Jマウス雄雌20頭ずつ、手術器具、麻酔薬・試薬類等の消耗品の購入も予定している。
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