研究課題/領域番号 |
20K15900
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
細島 頌子 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 研究員 (90847914)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 微生物ロドプシン / ヘリオロドプシン / オプトジェネティクス / 光遺伝学 |
研究実績の概要 |
本研究では微生物ロドプシンの膜配向を逆転させ、新たなオプトジェネティクスツールの創造を目指す。これまで微生物ロドプシンの膜配向はN末端が細胞外、C 末端が細胞内に局在するとされてきた。しかしメタゲノム解析により発見された新たな微生物ロドプシンのグループであるヘリオロドプシンは、アミノ酸配列が既知の微生物ロドプシンとは大きく異なり、さらにこれまでに知られていた微生物ロドプシンとは膜配向が逆転し、N末端が細胞内、C末端が細胞外に局在していることが判明した。これによりヘリオロドプシンと従来型微生物ロドプシンのキメラタンパク質を作製し、微生物ロドプシンの膜配向を転換するという着想を得た。 ヘリオロドプシンは2018年に発見されて以来、古細菌や真正細菌の他、藻類などの真核生物や巨大ウイルスなど、自然界に広く存在していることが分かった。2019年には古細菌由来のヘリオロドプシン結晶構造が報告されたが、その機能は判明していなかった。しかし本研究において世界に先駆けて円石藻に感染するウイルスが持つヘリオロドプシン(V2HeR3)が光依存的なプロトン輸送能を持つことを明らかにした。さらにアミノ酸変異体を作製し、構造と機能の連関について解析を行い、ヘリオロドプシンのイオン輸送機構について報告した。 微生物ロドプシンはチャネルやポンプの他にもセンサーや酵素としての機能が確認されている。今後、ヘリオロドプシンからも多様な機能が発見される可能性が高い。 また電気生理学的手法を用いて、クリプト藻に存在する5つの光受容陽イオンチャネル(GtCCR1-5)の光感度やOFF時定数について報告した。 これらの知見を基に新たな光遺伝学ツールの開発に取り組んだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
従来型の微生物ロドプシンと古細菌由来のヘリオロドプシン(TaHeR)のキメラ体を作製したが、光遺伝学ツールとして充分な光応答性は得られていない。一方で円石藻ウイルス由来のヘリオロドプシン(V2HeR3)の機能についての研究を進め、プロトントランスポーターであることを明らかにした。V2HeR3のアミノ酸変異体を作製し、イオン輸送機構について報告した。いくつかのV2HeR3変異体において、輸送の向きが野生型とは異なることが確認された。 またクリプト藻由来の微生物ロドプシン(GtCCR1-5)に着目し、それぞれのロドプシンの光強度依存性やチャネルの開閉速度について報告した。
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今後の研究の推進方策 |
V2HeR3は1つのアミノ変異で輸送の向きが逆転することが分かった。今後、V2HeR3を用いた膜配向とイオン輸送の制御法の確立を目指す。V2HeR3変異体およびキメラロドプシンを哺乳類培養細胞に発現させ、膜配向の検証を行う。電気生理学的手法を用いて、イオン輸送の整流性やイオン選択性、光感度等の電気生理学的性質を明らかにする。 またV2HeR3以外にもイオン輸送能を持つヘリオロドプシンを報告した。これらについても変異体やキメラタンパク質の作製を行い、イオン輸送機構について明らかにする。新たに得られた変異体やキメラタンパク質は神経培養細胞に発現させ、光遺伝学ツールとしての機能を検証する。 以上により新たな光遺伝学ツールのデザインを行う。得られた結果については国際学会や論文等に取りまとめ、成果を発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響で当初、予定していたよりも学会旅費の支出が減った。次年度使用額については、補助事業の目的達成に向けた追加実験を行い、それに使用することを計画している。
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