研究課題/領域番号 |
20K15901
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
後藤 明弘 京都大学, 医学研究科, 特定助教 (10741332)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | LTP / シナプス可塑性 / 学習 / 海馬 / CALI / Cofilin |
研究実績の概要 |
陳述記憶は初め海馬で短期的に保存された後、大脳皮質に移行して長期的に保存される。海馬の短期記憶が皮質の長期記憶に移るこのプロセスは記憶の固定化と呼ばれる。この過程で海馬と皮質の情報がやり取りされ、海馬に依存しない新しい神経回路が皮質で形成されると考えられている。ところが実証は乏しく、移行するのが皮質全体かそれとも特定の領域か、またいつ移行するか、そのメカニズムには様々な疑問が残されている。我々は、記憶がまず海馬で成立した後、オフライン(例えば睡眠時)に、LTPに代表されるシナプス可塑性(=offline LTP)が皮質で再度起こることで、皮質に新たな神経回路ができると考えた。この仮説を証明するために、シナプス可塑性的変化(LTP)をin vivoで光によって解除する技術を用い、offline LTPが生じているか、また生じているとすればいつ、脳のどこで生じているかを検討した。 受動的回避学習試験を用い、学習成立後の様々なタイミングで海馬にて光照射によるLTP解除を行い、学習が阻害されるかを検討した。Cofilin-SNをfloxで発現制御可能なAAV vectorを用いてCaMKII-Creマウス両側海馬CA1の錐体細胞に発現させ、593 nmダイオードレーザーから光ファイバーを通して海馬へ光照射した。その結果、電気ショック2-20分後のCALIで記憶が消去され、暗箱へ入るまでの遅延が抑制されることを見出した。さらに睡眠中にのみ光を照射した。マウスの睡眠状態を判定するため、電極を脳と筋肉に埋め込み、脳波と筋電図を観測することで、マウスが覚醒中か睡眠中(NREM及びREM睡眠)かを判定した。その結果、睡眠中にのみ皮質に光を照射すると記憶が消去されることを見出した。このことから、 LTPがオフラインで海馬で起きていることを実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、海馬においてオフラインLTPが起きていることを実証できたため、おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は固定化において皮質でLTPが起こる時間と部位を検討する。皮質内の部位としては、海馬と双方向性の結合がある嗅内野や脳梁膨大後部皮質、またc-fos mappingより記憶固定化への関与が示唆されている前帯状皮質をまず検討する。海馬とは異なり、学習直後にはLTPは必要ないが、固定化の過程では必要となると予想される。特に睡眠中にoffline LTPが起きていれば、睡眠中に大脳皮質に光を照射してLTPを解除することで、長期記憶が消去されると考えられる。海馬での実験と同様、AAV vectorを用いCofilin-SNを両側候補領域に発現させ、カニューレの埋め込み、IA testも同様に行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度は学会や研究打ち合わせに伴う移動などが減少したため、計画よりも旅費を使用しなかったため。
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