本研究はALSの新規治療戦略の考案を目指し、その病因タンパク質TDP-43の機能、特にスプライシング制御機構に着眼した。TDP-43は機能的バリアントである全長TDP-43の比率を一定に保つことが知られている。これまでの本研究成果より、TDP-43のスプライスバリアントの一つ(TDPsv)が翻訳されALS患者脊髄切片の運動ニューロンで有意に局在パターン変化を引き起こしていること、およびTDPsvがドミナントネガティブに全長TDP-43のスプライシング機能を阻害することを見出している(ドミネガ活性)。そこで、本計画ではTDPsvの神経毒性の有無、ドミネガ活性の発現機序、TDPsv産生の制御因子を検証した。 2020年度はiPS細胞由来ニューロンにおいてTDPsvが神経毒性を示すことを見出した。さらに、TDPsvは細胞内にユビキチン化された不溶性の凝集を形成し主要なタンパク質分解経路であるプロテアソーム系やオートファジー系による分解を免れていることが強く示唆された。 2021年度はTDPsvと全長TDP-43の複合体形成について検証した。TDPsvに変異を導入し全長TDP-43との複合体形成を阻害すると、TDPsvのドミネガ活性が打ち消されたことから、TDPsvは全長TDP-43とヘテロダイマーを形成することで全長TDP-43ホモダイマーを不足させ、ドミネガ活性を示すことが示唆された。 2022年度はTDPsvの産生を制御するRNA結合タンパク質(RBPs)を複数同定した。その一部のRBPはTDPsvへのスプライシングを促進することにより、内因性TDPsvタンパク質の発現を誘導することを確認した。よって、TDPsvの産生は複数のRBPsにより制御されており、この調節が破綻した場合、通常発現が低く抑えられているTDPsvが誘導され、最終的に神経毒性へと繋がることが示唆された。
|