研究課題/領域番号 |
20K15906
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研究機関 | 国立遺伝学研究所 |
研究代表者 |
松田 光司 国立遺伝学研究所, 新分野創造センター, 特任研究員 (40845228)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ゼブラフィッシュ / 前視蓋神経回路 / 刺激特異的細胞標識 / 1細胞RNA-seq / 形態・機能解析 |
研究実績の概要 |
我々動物は、自己運動により生み出される視野全体の像の動きであるオプティックフローにより、姿勢や進行方向を調節している。ゼブラフィッシュを用いた研究により、オプティックフローを視覚的に区別するための重要な脳領域として前視蓋が同定され、視覚刺激の種類に応じて様々な反応パターンを示すニューロンが混在していることが明らかとなった。しかし、個々の前視蓋ニューロンを区別して標識する技術が存在しないため、前視蓋ネットワークの機能解明には至っていない。本研究では、分子遺伝学的手法を駆使することで、オプティックフローに反応する前視蓋ニューロンを選抜し、シングルセル遺伝子発現解析を行う。神経活動と遺伝子発現プロファイルから前視蓋ニューロンを分類し、その細胞形態の解析及び行動との機能的因果関係の検証を行う。 本年度は、オプティックフロー特異的に反応する前視蓋ニューロンを標識・単離するための実験系を構築した。UV照射下で神経活動依存的に光変換するカルシウムセンサーCaMPARI2に注目し、核移行シグナルを付加したCaMPARI2を神経全体で発現するTg(elavl3:nlsCaMPARI2)を樹立した。また、回転性・並進性オプティックフロー視覚刺激の提示と、前視蓋へのUV照射を同時に行う顕微鏡システムを構築した。得られたTg(elavl3:nlsCaMPARI2)系統の受精後5-7日の仔魚に対し、UV照射下でオプティックフロー視覚刺激を提示したところ、静止したまま動かない縞模様を提示した場合と比べ、前視蓋でより多くの神経細胞が蛍光標識されることを確認した。これらの標識済み細胞のみをFACSで分取し、高い生存率で維持するための実験条件の最適化を行った。現在、国立遺伝学研究所・先端ゲノミクス推進センターとの共同研究により、単離した前視蓋ニューロンの1細胞RNA-seqを行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
オプティックフロー特異的に反応する前視蓋ニューロンの標識に必要な要素であるTg(elavl3:nlsCaMPARI2)の樹立および、オプティックフロー視覚刺激提示中にUV照射が可能な顕微鏡の構築を完了した。この顕微鏡システムを用い、UV照射とオプティックフロー視覚刺激により、前視蓋ニューロンを標識することができた。当初計画していたTg(elavl3:FLARE)は、FLAREシステムの全ての構成因子を神経全体に発現させるコンストラクトをシングルベクターで作製し、遺伝子組換え系統の樹立を試みたが、組換え体選抜マーカー遺伝子の発現が見られなかった。そのため、引き続きCaMPARI実験系を用いて、標識した細胞の遺伝子解析を行う。1細胞RNA-seqにおいて高品質のデータを得るには、サンプル調整が重要である。適切な細胞濃度と高い生存率を維持するための実験条件も最適化を完了しており、既に1細胞RNA-seqを開始している。これらの状況を踏まえ、概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
1細胞RNA-seq解析および、その後のバイオインフォマティクス解析により、オプティックフロー視覚刺激に特異的に反応する前視蓋ニューロンに発現している遺伝子を探索する。オプティックフロー視覚刺激を提示した場合と、静止したまま動かない縞模様を提示した場合のそれぞれにおいてCaMPARI2の光変換により標識した細胞を用い、1細胞RNA-seqを行う。これらの2条件のデータを比較することで、候補遺伝子を選抜できると考えている。次年度では、候補遺伝子の遺伝子座にCRSIPR/Cas9ゲノム編集技術を利用しGal4をノックインすることで、新規Gal4系統を樹立する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
視覚刺激の提示とUV照射を同時に行う顕微鏡システムについて、当初の予定よりも低価格で構築できたため。また、研究室所有の試薬で遺伝子組換え系統が樹立でき、試薬購入に関わる費用が予定額を下回ったため。次年度は1細胞RNA-seqを計画しており、本年度の未使用額はそのための費用に充てる。旅費に関しては、他研究費を用いた学会参加により情報収集を行うことができたため、本年度は使用しなかった。次年度の学会において、情報収集および学会発表を行うために使用する。
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