ヒト・動物の随意的なさまざまの身体動作の実現のためには、動作を立案する大脳と、その時の身体状況に合わせた調節を行う小脳との間の信号の連絡が必須である。そのために、大脳から小脳へ、橋核を経由する、大脳外で最大の線維連絡の経路が存在する。研究代表者らは、大脳と小脳にはそれぞれ明確な機能局在が存在することから、その間の投射を中継する橋核にも明確な区画構造が存在し明確な部位対応的投射が大脳・橋核・小脳間に存在するという仮説をたてている。さらに、橋核から小脳への単一苔状線維軸索を再構築することで、軸索投射の複数の小葉への分散投射の原則を解明している。本研究の目的は、更に詳細な実験により、橋核を経由する大脳小脳間経路の構築を解明することである。 本研究において、まず、橋核の区画構造を明らかにする目的で、以前の方法を改良してNeurog2-CreERマウスとR26R-H2B-mCherryマウスによる誕生日依存的ニューロン標識法が利用できること確認し、マウスの繁殖を軌道に乗せ、交配して誕生日依存的に神経標識を行った多数の脳サンプルを作製した。今後、組織標本を作製し、橋核における誕生日依存性のニューロン集団の区画を解明する。次に、小脳内の場所の同定を容易にする小脳縦縞構造可視化マウスと順・逆両方向性蛍光トレーサーを利用した高効率な投射パタン解析法を開発した。橋核と小脳皮質の各部位への注入標本を多数作製し、解析作業を続けていて、緻密な大脳・橋核・小脳投射の構築が明らかになりつつある。また、アデノ随伴ウイルスでの標識実験に着手した。初年度の期間内では、論文発表に至らなかったが、近い将来に成果をまとめて発表できると考えている。大脳小脳間の機能的連絡のメカニズムと身体動作制御の機構の理解に貢献し、さまざまな運動障害の治療法開発に寄与できることが期待される。
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