研究実績の概要 |
神経活動は神経回路形成に重要な役割を果たすことが知られている (Katz and Shatz, Science, 1996)。発生期の神経細胞は多様なイオンチャネルを発現しており(Picken Bahrey and Moody, J. Neurophysiol., 2003; Liu et al., J. Neurosci., 2010; Bando et al., Cereb. Cortex, 2014; 2016; Kamijo et al., J. Neurosci., 2018)、それらのチャネル機能の協調が、発生期における神経活動の時空間的パターンを形成し、神経回路形成に寄与すると考えられるが、その詳細は未だ謎である。本研究の目的は、漏洩Naチャネル、NALCNに着目し、NALCNによる神経活動制御機構及び、神経活動を細胞内Ca2+シグナルに変換する機構を明らかにし、活動依存的神経回路形成機構を分子、形態、生理の視点から統合的に解明することである。2020年度は、ヒトの遺伝性神経疾患の原因となるNALCN変異体のチャネル機能を調べるための電気生理学実験装置及びイメージング装置をセットアップした。現在、ヒト神経疾患との関連性が報告されているNALCN変異体(Al-Sayed et al., Am. J. Hum. Genet., 2013、他6報)を作成し、パッチクランプ法を用いてチャネル機能を調べている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で着目したNALCNはヒトの精神・神経疾患との関連が知られている。最近6年間で、重度の精神遅滞および筋緊張低下を伴う常染色体劣性遺伝病の患者において、20個以上のNALCNの突然変異が報告されている(Al-Sayed et al., Am. J. Hum. Genet., 2013、他6報)。また、患者のゲノム解析により、NALCN変異は統合失調症や双極性障害と関連することも指摘されており、NALCNの重要性が急速に認識されつつある(Cochet-Bissuel et al., Front. Cell. Neurosci., 2014)。本研究では、①NALCNの機能低下及び機能亢進は神経回路形成のどの段階に影響を及ぼすか、②NALCNの機能低下及び機能亢進は、静止膜電位、膜抵抗といった細胞膜の電気特性をどのように変化させるか、③NALCNの機能低下及び機能亢進は、神経活動の頻度及び、細胞内Ca2+シグナルのパターンをどのように変化させるかという問題に分けられる。NALCNのノックアウトマウスは致死であるため、神経回路形成過程を解析することは難しい。そこで、ヒト疾患で報告されているNALCNの変異体をスクリーニングし、機能低下型(機能欠損型ではない)と機能亢進型変異を同定し、これらの変異を導入したトランスジェニックマウスを解析し、これらの問題を解決する。まず、変異型NALCNのチャネル機能を調べるための実験装置(パッチクランプ用アンプ、蛍光イメージングシステム)を構築した。次に、野生型NALCNをクローニングし、C末端に緑色蛍光タンパク質(GFP)を融合した。クローニングした野生型NALCNに、ヒト遺伝性神経疾患との関連性が報告されているNALCN変異を導入し、変異型NALCNを20種類作製し、チャネル機能を調べている。
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