脳は常に体液状態を監視しており、体液中のナトリウム(Na)濃度やアンジオテンシンII(Ang II)などに応答して、血圧および水分・塩分欲求、排尿などの生理機能を制御することで、体液恒常性に寄与している。血液-脳関門が欠損した感覚性脳室周囲器官(sCVOs)である脳弓下器官(SFO)および終板脈管器官(OVLT)には、Naセンサー分子やAng IIの受容体であるAT1aを有した細胞が局在している。しかしながら、これらの細胞が獲得した複数の情報を統合して、生理機能を制御するメカニズムの詳細は分かっていない。 本研究では、sCVOsにおけるNaやAng IIによる血圧制御機構について解析した。sCVOs特異的にAT1aの発現を欠損させたコンディショナルノックアウトマウスを用いて、AngIIの昇圧作用に関与する神経核がSFOとOVLTの2つであることを明らかにした。また、SFOおよびOVLTのAT1a陽性の神経細胞が視床下部の複数の神経核に投射していることを明らかにし、その内の1つの神経回路をオプトジェネティクスを用いて人為的に活性化することで、血圧上昇を誘導することが出来た。これらの研究成果から、Ang IIとNaによるシグナルがそれぞれ視床下部の同一の神経核に伝達されていることが分かった。現在、これらのシグナルが独立して伝達されるのか、統合されるのか解析を進めている。 本研究の過程で、Ang IIによる高血圧誘導時にsCVOsのミクログリアが活性化していることを発見した。近年、本態性高血圧症の原因として脳内炎症による交感神経系の活動亢進が関与している可能性が指摘され始めている。そこで、本研究を発展させ、脳内炎症を起点とした血圧制御機構の解明を目指し、最終年度前年度応募研究課題を提案した。この研究課題が採択されたことから、本研究課題は最終年度を残して廃止することとなった。
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