研究課題/領域番号 |
20K15932
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
小林 曉吾 九州大学, 理学研究院, 助教 (40867735)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 記憶痕跡細胞 / 遺伝学的標識 / 抑制性細胞 / 海馬歯状回 / 文脈依存的恐怖条件付け学習 |
研究実績の概要 |
脳領域の1つである海馬は、「記憶の座」として知られるが、海馬は入力信号をただ“暗記”する記憶媒体ではなく、記憶の汎化を行う。記憶の汎化は、未知のシチュエーションにおいても過去の経験をもとに、より適切な行動を選択するのに寄与すると考えられるが、過度の記憶の汎化は、生活の質(Qality of life)の低下や、精神疾患の原因となりうると考えられている。 先行研究により、海馬歯状回に存在する記憶痕跡細胞の活性化度合いの制御が、記憶のあいまいさ制御に深く関与することが示唆されているが、その詳細は未解明のままである。このような観点から、申請者は、海馬歯状回に存在する記憶痕跡細胞に投射する抑制性細胞が、記憶の汎化制御に寄与している可能性があると考え、本研究計画を実施している。 「記憶痕跡細胞」と「その記憶痕跡細胞に投射する抑制性細胞」としてレポーター遺伝子で標識されたそれぞれの細胞の数をカウントしたところ、(1)「記憶痕跡細胞」として標識される細胞の数は、マウスを飼育ケージ内に静置していたコントロール群よりも、条件付けチャンバーに暴露した実験群においてより多い傾向があった。また同様に、(2)「その記憶痕跡細胞に投射する抑制性細胞」として標識される細胞の数も、飼育ケージコントロール群よりも、条件付けチャンバー実験群において増大する傾向が観察された。続いて、「記憶痕跡細胞」と「その記憶痕跡細胞に投射する抑制性細胞」としてレポーター遺伝子で標識されたそれぞれの細胞の種類について免疫組織化学染色法を用いて同定を行ったところ、(1)「記憶痕跡細胞」として標識される細胞の種類は、ほぼ全てが興奮性細胞であった。一方で、(2)「その記憶痕跡細胞に投射する抑制性細胞」として標識される細胞の種類は、複数種類の細胞タイプが検出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は、新型コロナウィルスの感染拡大に対する処置として、大学への入構及び、研究室の滞在時間が大きく制限される期間が存在したが、厳しい制限の多くが解除された本年度は、おおむね順調に研究が進展したといえる。しかし、「記憶痕跡細胞」と「その記憶痕跡細胞に投射する抑制性細胞」の両方を標識する実験手法について、その標識精度については改善の余地があり、次年度以降も継続して研究を進めていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
「記憶痕跡細胞」と「その記憶痕跡細胞に投射する抑制性細胞」の両方を標識する実験手法について、その標識精度については改善の余地があることが判明した。次年度以降も継続して標識精度の向上についてより実験条件の検討を進めていきたい。また、自由行動下のマウス海馬においてin vivo カルシウムイメージングを実施する実験も併せてセットアップを行い、記憶の制御に寄与する海馬神経活動の解析を実施したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、参加予定であった学会が中止もしくは参加費無料のオンライン開催に変更となった。そのため、当初予定していた旅費が未使用となっている。次年度は積極的に学会に参加して研究発表、意見交換を実施する予定である。
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