恐怖や痛みなどの負の情動は個体に危険を知らせる警告信号として働くため、個体の生存に必須である。一方、PTSDなどの精神疾患に伴う負情動の制御破綻は過度の苦痛をもたらしてQOLを著しく低下させ、臨床上の大きな問題となる。しかし、情動制御、特に神経修飾物質による情動制御の神経回路機構については未だ不明な点が多い。申請者らは、脳幹の腕傍核から情動の座である扁桃体への投射がPTSDモデルにおいてシナプス増強を示すこと、そして同経路の光遺伝学的活性化が人工的恐怖記憶を形成することを明らかにしてきた。また、腕傍核がドーパミンニューロンの主要な起始核である腹側被蓋野に投射すること、腹側被蓋野のドーパミンニューロンが扁桃体に投射することが報告されている。そこで本研究では、シナプス機能の修飾因子としてドーパミンに着目し、脳幹-腹側被蓋野-扁桃体神経回路を包括的に解析することでその生理的意義とシナプス・回路レベルでの制御機構を明らかにすることを目指す。本年度は、昨年度に引き続き、ドーパミンが脳幹-扁桃体経路におよぼす作用を電気生理学的に詳細に解析した。特に光遺伝学的手法を用いた経路特異的解析手法によって、ドーパミンによる脳幹-扁桃体シナプス伝達制御には2つのパターンがあることを見出した。さらに、その細胞機構と分子機構を明らかにした。また、腹側被蓋野-扁桃体経路の解析も進め、脳幹-扁桃体経路におよぼす影響を検討した。
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