動物は絶えず変化する周囲の状況に応じて適切な意思決定を行う。これまで意思決定においては、過去の経験依存的に適切な行動が引き起こされる仕組みが研究されてきた。一方、動物は未知の状況においても到達すべき状況を予測し、適切な行動を選択する。この予測に基づいた意思決定は、我々ヒトの精神活動においても根幹をなす脳機能の一つであるが、そのメカニズムは不明な点が多い。本研究では、ゼブラフィッシュのコンパクトな大脳皮質-基底核回路を活かして、予測に基づいた意思決定中の神経活動を計測し、予測情報が統合され適切な行動に反映される神経回路機構の解明を目指す。これまでの結果から、ゼブラフィッシュの淡蒼球内節に相当する細胞から大脳皮質への情報出力において、周囲の状況の危険度の予測情報が伝達されていることが既に判明していた。
この淡蒼球内節に相当する細胞の活動を制御している線条体の直接路・間接路細胞が仮想空間でのGo/No-go課題学習中にどのような活動を示すかをカルシウムイメージングにより計測したところ、学習依存的な予測性の神経アンサンブル活動を計測することに成功した。さらに、淡蒼球内節、線条体の直接路・間接路細胞のタスク中の活動パターンに加えて、所属研究室で過去に計測された大脳皮質相当領域のイメージング結果を統合的に解釈し、ゼブラフィッシュの大脳基底核が大脳皮質を不安定化させることで行動状態を適切に遷移させ、最終的に魚を目標とするゴールの状況下へ導くことのできる神経回路モデルを作成した。以上の成果により、脊椎動物の大脳皮質ー基底核回路が、適切な到達すべき状況の予測と、それに基づいた行動選択を行う基本的な計算原理を提唱した。
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