研究課題/領域番号 |
20K15946
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
小島 正寛 北海道大学, 薬学研究院, 助教 (90824714)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 光反応 / 金属触媒反応 / 医薬化学 / ラジカル |
研究実績の概要 |
令和2年度までは炭素求核剤がソフトなカルボアニオン種に制限されていた触媒的アリル位アルキル化反応を、光酸化還元触媒とコバルト触媒を用いることでアルキルラジカル求核剤を用いた反応へと拡張することで、創出可能な有機分子ビルディングブロックの多様性拡大に貢献することを目標としてきた。最初の1年間の研究にて、安定性が高く反応性の制御が比較的容易なヘテロ原子に隣接したアルキルラジカルのみならず、より取り扱いが困難だが創出可能な分子の多様性が大きい不安定アルキルラジカルが使用可能であるといの知見を得ていた。 これらの初期的な結果を踏まえ、令和3年度は(1)窒素原子に隣接したアルキルラジカルを求核剤として用いたアリル位アルキル化反応、(2)アミン誘導体から還元的に発生させたアルキルラジカルを用いたアリル位アルキル化反応、(3)より汎用性の高い別のアルキルラジカル前駆体を用いたアリル位アルキル化反応、の3つの研究に取り組んだ。最も大きな進展があった(2)についてはニッケルを触媒として用いたアリル化の先行研究では合成が難しかったアリル化合物が、コバルト触媒を用いた場合には容易に合成可能であるとの知見を見出し、コバルト独自の反応性の発見に成功した点で学術的に意義深い知見を得た。また生物活性化合物から簡便に誘導可能なアルキルアミンのlate-stageアリル化に成功し、開発した反応系が新規医薬候補化合物の創出に有用であることをしますことができた。(1)(3)についてもそれぞれの反応系にて、合成化学的に有用であるが(2)の条件では共存が難しかった官能基が許容されるなどの知見を見出し、コバルト触媒を用いたアリル化反応の幅広い合成応用に向けた知見を得ることに成功した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【研究実績の概要】にて言及した(1)~(3)それぞれの反応系について、現在の所コバルト触媒は外部配位子を添加しない条件にて最良の結果を与えるという共通した知見を得た。このコバルト触媒の性質は過去の熱的な反応条件とは一線を画し、光触媒とコバルト触媒の協働触媒系を用いたアリル化反応の特徴と考えられる。この性質のため、現段階では研究計画で提案した不斉多座リン配位子を用いた立体制御を実現するためには、配位子による加速効果が観測される反応系を見出すための更なる検討が必要と考えている。 一方で(2)として言及したcross electrophile coupling形式の反応については、コバルト触媒がより広く研究されているニッケル触媒に対して合成化学的な面で優位性を持つという重要な知見を得た。これは地殻中に豊富に存在するため近年盛んに研究されている第一列遷移金属触媒を用いた反応開発という広い文脈の中で、コバルトがユニークな有用性を有していることを証明した点で、価値の高い研究を行うことができたと自負している。(2)については上記の知見をまとめ、国際誌への論文発表を行った。 (1)(3)として言及した研究についても、触媒反応条件の最適化は既に終了しており、現在基質一般性の検証を行っている。いずれの場合においても、これまでに知られている低原子価金属とアルキルラジカルの協働によるアリル化では困難であった変換が可能となるとの知見を得ており、この検証が終了し次第、それぞれについて国際誌への論文投稿を行う予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
まずはプロジェクトが現在進行中である(1)(3)の研究について、実験的検討の完遂と論文投稿を行う。 その後の研究の推進方策として、量子化学計算を用いた反応機構解析と、アリル化の立体制御の実現を目指したい。本反応系では短寿命化学種である低原子価コバルト(I)、およびアリルコバルト(III)が活性種と想定される。いずれの化学種もその不安定性のため、単離を行っての性質の研究が困難であり、反応機構に関する知見が得にくい原因となっていた。申請者は令和3年度に行った研究で、量子化学計算による理論的アプローチにて、不安定な反応活性種に関する知見を得ることに成功した。すなわちアリル求電子剤のコバルト(I)への酸化的付加段階、アリルコバルト(III)の光酸化還元触媒による1電子還元、アリルアルキルコバルト(III)からのコバルト触媒の還元的脱離、という3つの素反応について、DFTで合理的な反応経路の存在を示すことができた。この知見からコバルトは反応系中において三重項状態にあること、コバルト(I)の対アニオンに依存し触媒反応の律速段階が変化すること、また溶媒として使用しているアセトニトリルがコバルトに可逆的に配位した状態で反応が進行することが分かった。こうしたスピン状態、や各素反応のエネルギー障壁、配位子の状態に関する知見を活用し、キラルな配位子を用いたコバルト触媒アリル化の立体化学制御に取り組みたいと考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
アミン誘導体を用いた還元的アリル位アルキル化反応については令和3年度中に論文投稿を完了したが、窒素原子隣接アルキルラジカルを用いたアリル化、および別のアルキルラジカル源を用いる反応系については現在も検討を継続しており、令和4年度中に論文投稿を行いたい。付随して発生する追加実験に必要な試薬、および実験器具費用、また論文用の化合物データを収集するために使用予定の北海道大学共用分析機器の使用費用に次年度使用額を充てたい。また論文原稿を投稿する前に行う英文校正の依頼費用にも、本助成金の次年度使用額の一部を充てさせて頂きたいと考えている。
|