これまで申請者は、シクロプロペノンの光反応を利用してカルボン酸を化学修飾する手法を開発してきた。カルボン酸はアミノ酸や脂肪酸等の生態関連分子に多く見られるため、申請者の開発した反応は、これらの生体関連分子を、光を利用して特定の空間、タイミングで化学修飾するのに有用と期待できる。生体関連分子は水溶性のものが多く、それらの化学修飾は水中で行えることが求められる。これまで開発してきた光反応は水共存下では収率が大幅に低下するという課題があったため、本年度は水共存下で実行可能な光反応開発に焦点を当てて検討を行った。 シクロプロペノンの置換基を変更することで、これまで開発したものとは異なる活性種を発生させる光反応の開発に取り組んだ結果、水共存下でも良好な収率で進行する光反応の開発に成功し、この成果について1件学会発表を行った。更に、昨年度までの知見を活かし、開発した新規反応について、光触媒を用いることで、より温和な長波長光で行う検討を行った結果、狙い通り光触媒により反応を促進できることが分かった。 申請者が新規光反応基として見出したアミノシクロプロペノンは、アミドと類似した構造をもち、新規薬物骨格としての利用も期待できるが、これまでアミノシクロプロペノン骨格をもつ分子の生理活性に関する報告は皆無であった。これまで合成したアミノシクロプロペノン誘導体の生理活性の評価を行った結果、一部の分子が、がん細胞の核形成に作用することで細胞毒性を示すことを見出し、本成果について1件論文発表を行った。今後は申請者が開発した光反応を活用することで、活性を持つアミノシクロプロペノンの標的同定が可能と期待できる。
|