本年度は昨年度から引き続きα-ケト酸を用いた脱炭酸型分子変換の確立を進めるとともに、硫黄化学種を利用した新規反応の開発にも取り組んだ。昨年度までの検討で、可視光レドックス反応条件下、単体硫黄を用いた脱炭酸型チオエステル化が良好に進行することを見出していたが、その後の基質一般性の検討により、糖やペプチドを含む幅広いチオエステル誘導体の合成に適用できることが明らかとなった。また、詳細な反応機構解析により単体硫黄およびそこから生じた活性化学種が硫黄源、酸化剤、および水素移動ドナーの3つの役割を果たしていることが示唆され、本知見は今後単体硫黄を用いた反応開発を行う上でも非常に意義深い。さらに、同じく昨年度に見出していたβ-アミノ-α-ケト酸等価体を与える不斉Mannich反応について、触媒の置換基効果を密度汎関数理論(DFT)計算により精査し、単純な構造でありながら極めて効果的に働く触媒の立体発現機構を明らかにした。加えて、合成したβ-アミノ-α-ケト酸を用いて以前に見出していた脱炭酸型アミド化の反応機構解析も進め、当初問題となっていたエピメリ化の抑制にも成功した。 さらに筆者らはアミドのN-クロロ化を経由するペプチドの新規化学修飾法について検討を行った。アミド窒素上への置換基導入は通常強塩基等が必要であるため、エピメリ化等が問題となるペプチドへの適用は困難である。一方で筆者らはペプチド中アミドのN-クロロ化が触媒量のアミン存在下極めて円滑に進行することを見出した。本知見を基に、得られたN-クロロペプチドを経由するアミノ酸側鎖の化学修飾を検討しており、デヒドロアミノ酸やクロロ化アミノ酸等に変換できることを既に明らかにした。今後より長鎖のペプチド鎖に適用し、本法の実用性を示したい。
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