研究課題/領域番号 |
20K15955
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
嵯峨 裕 大阪大学, 工学研究科, 助教 (20785521)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 不活性C-H結合 / 光触媒 / 協奏触媒 / 電気化学 / CO2活性化 |
研究実績の概要 |
本研究では、低反応性有機化合物、その中でも特に不活性C(sp3)-H結合に対し、CO2ガスを直接不斉導入しキラルカルボン酸を合成する、という前人未到の触媒方法論の創出に向けて取り組んでいる。その中で、以下に示す5つの重要成果を得ることができた。すなわち、当初予定していた光を用いた触媒系のみならず電気を用いた触媒系の確立も達成し、研究の大幅な推進を実現することができた。 1、可視光光捕集機能とCO2活性化機能を併せ持つ新規機能統合型Ru錯体を設計・開発した。本錯体を触媒として用いることで、世界最高水準の触媒効率を示すCO2光還元反応を達成した。 2、犠牲還元剤とアシルラジカル等価体炭素源の2つの機能を発現する新たな化合物群を見出し、世界に類を見ない、本化合物を用いた低反応性分子不活性アルケン化合物との光化学的ヒドロアシル化反応を達成した。 3. 更に上記知見を基盤として、CO2存在下、目標としていたCO2ガスの直接的導入にも成功した。すなわち、アシル基及びCO2ガスを、低反応性分子である不活性アルケン化合物に同時導入する。3成分アシルカルボキシル化反応も世界で初めて達成した。 4、当研究室で独自に開発したNi5核金属錯体存在下、低反応性分子である不活性アルケン化合物への電気化学的CO2挿入反応に成功した。Ni5核錯体触媒の還元種とCO2が相互作用し、何らかの触媒活性種が生成している知見を電気化学的測定から見出している。本触媒系を用いることで、温和条件、高収率、高ファラデー効率を両立できる電気化学的ヒドロカルボキシレーションを世界で初めて達成した。 5、HAT触媒、金属触媒を電気化学的条件下機能させる協奏触媒系を確立し、世界初の不活性C(sp3)-H結合に対する電気化学的CO2挿入反応を達成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究計画の第1目標で想定していた、新規錯体の「CO2活性化部位、光レドックス部位の精密設計」において、Nヘテロサイクリックカルベン配位子を有する機能統合型Ru錯体を設計・開発し、そのX線結晶構造解析による構造同定にも成功した。更に本錯体を用いた、CO2光還元反応が世界最高水準の触媒効率を示すことも見出した。 また、CO2存在下、目標としていたCO2ガスの直接的導入にも成功した。すなわち、アシル基及びCO2ガスを低反応性分子である不活性アルケンに同時直接導入しうる3成分アシルカルボキシル化反応を世界で初めて達成した。 同様に、当研究室で独自に開発したNi5核金属錯体存在下、低反応性有機分子である単純アルケン化合物への電気化学的ヒドロカルボキシレーション反応も達成した。これは、温和条件、高収率、高ファラデー効率を両立した触媒系の世界初の例である。 また、第2目標の「HAT部位、不斉誘導部位の精密設計」において、HAT触媒、金属触媒を電気化学的条件下機能させる協奏触媒系を確立し、世界初の不活性C(sp3)-H結合に対する電気化学的CO2挿入反応を達成した。 上述したように、第1目標を達成する新規錯体の開発及び3つの新規触媒反応の開発、第2目標を達成する1つの新規触媒反応の開発を実現した。当初の計画にはなかった、電気化学を駆使した触媒系の開発も進行しており、当初の計画以上に研究が進捗していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
先に述べたように、第1目標で想定していた、「CO2活性化部位、光レドックス部位の精密設計」を満足する新規機能統合型Ru錯体の開発に成功し、更に3つの新規触媒反応も開発できた。加えて、第2目標の「HAT部位、不斉誘導部位の精密設計」に関して、目標を満足しかつ世界初の成果である、電気化学的触媒手法の開発にも成功している。 今後は本知見を生かし、第1目標と第2目標を同時に満足できる新規錯体及び新規触媒系の開発に注力し、高難度の化学変換の実現に向けて検討を続けたい。加えて、第2目標で掲げた不斉誘導部位についても検討を進めたい。「低反応性小分子有機化合物、特に不活性C(sp3)-H結合に対し、CO2ガスを直接導入し、カルボン酸を合成する」目標を達成したため、「低反応性小分子有機化合物、特に不活性C(sp3)-H結合に対し、CO2ガスを直接不斉導入し、キラルカルボン酸を合成する」最終目標に向けて研究を行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた、新規金属錯体の開発並びに新規光触媒系の構築は順調に進捗している。 昨年度以降、当初計画にはなかった電気化学的研究に関する予期せぬ結果が2つ得られた。 これを受けて計画を修正し、電気化学的有機合成反応の検討並びに解析に使用する電解装置や実験消耗品の更なる購入が必要と判断した。 よって当初予定していた光反応装置のさらなる購入は一旦取りやめ、この経費は上述の目的によって必要になる装置や備品費の購入に充てることとした。
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