IVMアグリコン下部ユニットにおいては天然物への分解実験により取得した。IVM B1aから3工程で得られるトリオールの共役ジエン(C10-C11)をオゾン分解により開裂した後、得られたアルデヒド体をWittig反応によりエキソオレフィンへと変換した。次に第一級水酸基を酸化する際にC3-C4位オレフィンの異性化やベンゾフラン環の芳香族化を避けるため、中性条件であるTEMPO酸化によりアルデヒドへと変換した後、Pinnick酸化の試薬を加えることでカルボン酸へと一挙に導いた。 次に合成したアグリコン上部ユニットと下部ユニットに対して縮合剤を用いたエステル化を試みたが、いずれの条件においても下部ユニットが分解する結果となった。これは縮合剤とカルボン酸から生じる活性エステルがC7位水酸基と不安定なβラクトンを形成し、その分解に伴って副反応を誘発しているものと推測した。 そこで他のエステル化の手法として、C19位水酸基を立体反転させた上部ユニットと下部ユニットを用いた光延反応により目的のエステル体を与えることを見出した。しかし、43は多くの不斉炭素や官能基を有するため柔軟性に乏しく、その後のRing closing metathesis (RCM)は進行しなかった。 そこで、環員数の増加による基質の柔軟性向上を目的に無水コハク酸をテザーとして上部ユニットと下部ユニットを繋ぎジエステル体を調製したところ、期待通りRCMが進行し共役ジエン体を与えた。次に無水コハク酸由来のテザーを還元的に除去した後、C1位の第一級水酸基を選択的にカルボンへ酸化し環化前駆体へと導いた。そして椎名マクロラクトン化と、続くC5、C13位水酸基の脱保護によりIVM B1aのアグリコンの合成を達成し、既存の機器データと完全に一致したことを確認した。
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