研究実績の概要 |
がん治療に遷移金属触媒を利用する場合、「触媒活性OFF」の状態で標的部位に送達し、標的部位において選択的に「触媒活性ON」となる触媒が理想的である。これにより、標的部位においてのみ反応基質(プロドラッグ)を活性体へと変換することができ、非標的細胞への影響を低減できる。また、標的部位へ送達中の触媒を生体内触媒毒から守ることができる。 本研究では、がん治療への応用を指向したルテニウム触媒の活性制御機構の開発を目的とし、ルテニウム触媒と抗体結合ペプチドを利用し、ペプチドが抗体に結合した時のみ「触媒活性ON」となるルテニウム触媒のスイッチ機構の開発をめざす。 2020年度では、ペプチド配列中にルテニウム触媒を組み込むためのリガンドとなる化合物の合成を進め、現在も合成を続けている。一方で、ルテニウム触媒とヒト血清アルブミンの複合体を調製することに成功した。このルテニウム触媒-アルブミン複合体の触媒活性をリン酸緩衝液中で評価したところ、複合体を形成することにより、瞬間的な触媒活性は低下するものの触媒活性の持続時間が延長することを見出した。これは、以前の報告(Nature Catal., 2019, 2, 780)と同様に、触媒中心が基質や触媒毒から守られている状態であると示唆される。この状態は触媒活性OFFと考えられ、本研究で提案するような触媒活性ONとなる機構を組み込むことで、スイッチ機構が実現できると期待できる。これらの結果について、現在、論文を投稿中である。本結果は、スイッチ機構の第一歩であり、今後、触媒活性ONとなる機構を組み込んだペプチド-ルテニウム触媒架橋体の合成を進める予定である。
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