薬物ナノ分散液は、薬物粒子をナノメートルサイズまで加工した製剤であり、薬物の溶解性・吸収性を著しく向上させるため、次世代の製剤として期待されているが、ナノ粒子の物理化学的な安定性に問題がある。本研究では、薬物ナノ懸濁液における不安定化のモニタリングを目的として、核磁気共鳴(NMR)緩和の測定を、低磁場NMR装置にて行った。本研究の成果は、水のNMR緩和を測定するため、薬物や添加剤の種類に依存しない、汎用的な技術となることが期待される。 2020年度は、モデル処方としてインドメタシン(IMC)ナノ分散液の処方およびプロセスを確立し、さらに、得られた分散液を25℃にて6時間保存し、経時的なT2緩和の測定を行った。その結果、T2緩和時間は経時的に延長し、3時間後にほぼプラトーに達した。表面化学の分野において、分散液のT2緩和時間は、粒子の比表面積を反映することが知られていること、およびIMCナノ粒子の一次粒子径は、保存の前後で変化を示さなかったことから、本研究で観測された3時間までのT2緩和時間の変化は、IMCナノ粒子の凝集に由来すると考えられる。すなわち、時定数であるT2緩和時間により、薬物ナノ粒子の凝集挙動をモニタリングできることが明らかとなった。 2021年度は、当初の予定を変更し、25℃にて6時間保存したIMCナノ分散液について、その後のT2緩和時間を追跡した。予定を変更したのは、IMCの結晶形について、再現性良く分散液を調製できなかったためである。測定の結果、3時間後もわずかにT2緩和時間は延長を続けることが判明した。溶液安定性評価装置による解析の結果、およそ3時間までIMCナノ粒子の凝集が発生し、3時間以降に粒子の沈降が発生していた。すなわち、T2緩和の測定により、IMCナノ粒子の凝集だけでなく、沈降挙動もモニタリングできることが明らかとなった。
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