研究では、様々な特性を有する希土類フッ化物(LnFn)ナノ結晶を合成し、それらを直接結合させることで、2つの顔を持つかのような異方的な構造 (ヤヌス型構造) を形成することを目指して研究を行った。 初めに、ナノ結晶合成における加熱時間を長くすることにより、生成したナノ結晶がさらに結合し、複雑に分岐した高次構造を形成する様子が観察された。加熱時間を変えたナノ結晶において、光触媒反応の対象物質であるクマリンの分解量には大きな差が見られなかったものの、反応生成物である7-ヒドロキシクマリンの生成量にはばらつきが見られた。また発光特性についても評価を行い、ユウロピウム(Eu)の2価による光吸収と発光増強の可能性が示唆された。これらの結果を踏まえて、Euフッ化物だけでなく、テルビウム(Tb)やガドリニウム(Gd)を用いたフッ化物ナノ結晶についても、合成時間を変化させ、それに伴うナノ結晶の形状や構造、光物性の変化を評価するとともに、異なる希土類ナノ結晶を組み合わせることによるヤヌス構造の形成と特性評価について着手した。ヤヌス構造の形成には、まず1種類のみで構成された希土類ナノ結晶を個別に合成し、精製した後、再び合成溶媒中に分散させて、加熱還流することにより作製を試みた。作製した試料は、それぞれの結晶構造を保持するとともに、複雑に分岐した高次構造を有することがTEM観察より確認され、光触媒活性もそれぞれの単体よりも上昇する結果が得られた。発光特性を評価したところ、GdFnナノ結晶にドープしたTb単体の発光よりも、EuFnナノ結晶を結合させたヤヌス型ナノ複合体中におけるTbの発光の方が強くなり、Euによる光吸収とエネルギー移動によりTbの発光が増強したことが示唆された。光触媒反応においてもヤヌス型にすることによる増強が観測され、異なるナノ結晶を結合することによる特性の変化に成功したと考えている。
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