研究課題/領域番号 |
20K15982
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研究機関 | 国立医薬品食品衛生研究所 |
研究代表者 |
原矢 佑樹 国立医薬品食品衛生研究所, 薬品部, 主任研究官 (30634604)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 細胞膜透過ペプチド / 膜摂動力 / 原子間力顕微鏡法 |
研究実績の概要 |
本研究では、薬物の細胞内送達に応用可能なペプチド(細胞膜透過ペプチド)の機能である細胞膜透過に関する分子機構解明を目的として、脂質膜の硬さ(膜剛性)を変化させるペプチドの作用を「膜摂動力」と新たに定義し、原子間力顕微鏡法(AFM)を利用したナノメートル次元での力学的計測によって、種々のペプチドの膜摂動力を明らかにする。さらに、従来の生物物理学的手法を用いながら、ペプチドの物理化学的特性および細胞膜透過性・細胞毒性を評価し、膜摂動力との相関を解明することで、生理活性ペプチドや抗体などの中分子・高分子薬物を細胞内へ効率的に輸送する方法開発のための科学の推進を目指している。 令和2年度は、研究代表者が過去に確立したAFMによる膜剛性の直接定量法を応用し、細胞モデル膜としての人工脂質膜小胞を用いた系で、膜摂動力の計測を実施した。その結果、膜作用性が強く細胞毒性をもつことで知られるメリチンペプチドを添加した対照サンプルにおいて、約20ピコニュートンの膜摂動力の検出に成功し、膜小胞群の35%程度の割合に崩壊が見られた観測事実と合わせて、本AFM計測手法の妥当性を確認した。また、膜作用性が弱い親水性の細胞膜透過ペプチドであるRevおよび両親媒性ヘリックス構造によってRevより膜作用性と膜透過性を格段に向上させた独自のA2-17ペプチドについても同様のAFM計測を行った。その結果、Revを添加した場合では有意な膜摂動力が検出されなかったのに対して、A2-17は約10ピコニュートンの膜摂動力を示すことが明らかとなった。 今後、特性が異なる他のペプチドについても膜摂動力の計測を実施しながら、各ペプチドの構造および脂質膜への結合親和性等に関する解析や細胞膜透過性および細胞毒性の比較評価を進めることで、細胞膜透過ペプチドの膜摂動機構解明とともに機能を最大化する方法論の構築をめざす。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究を推進する上で肝心となるAFMを用いた膜摂動力の評価手法の妥当性を確認し、順調に研究を開始した。しかし、新型コロナウイルス感染症の流行の影響により、他大学との共同研究で予定していた電流測定法による細胞膜透過ペプチドの膜透過メカニズム解析実験の実施が一時延期となった。また、年度途中より海外滞在が必要になったため研究を一時中断しており、遅れが生じている。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度では、A2-17のアミノ酸配置交換を行うことによって両親媒性構造を合理的に制御した3種のA2-17誘導体の作製を行う。その上で、令和2年度で計測の妥当性を確認したAFMによる膜摂動力の定量評価を作製したペプチドについて実施し、細胞を用いたペプチドの膜透過性評価実験の結果と合わせて、膜摂動力と細胞膜透過性の相関について検討を進める。さらに、各種ペプチドの膜摂動力に寄与する物理化学的特性としての「両親媒性α-ヘリックス構造および脂質膜への結合親和性・膜疎水部への結合深さ」を明らかにするために、人工脂質膜小胞の系において、円偏光二色性法およびペプチドのトリプトファン残基を利用する蛍光分光法による解析を進める。また、膜摂動によって脂質膜に一時的に生じる細孔または構造変化を介したペプチドの脂質膜透過現象を検証できる電流プロファイルの解析を進め、細胞膜透過ペプチドの膜摂動機構について別視点からの検討を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度途中より海外滞在が必要となって研究を一時中断したため、主にぺプチドの合成にかかる費用の分で差額が生じた。令和3年度ではこの差額を使用する。
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