研究課題/領域番号 |
20K15982
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研究機関 | 国立医薬品食品衛生研究所 |
研究代表者 |
原矢 佑樹 国立医薬品食品衛生研究所, 薬品部, 主任研究官 (30634604)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 細胞膜透過ペプチド / 脂質膜 / 膜透過 / 膜摂動 / 原子間力顕微鏡法 |
研究実績の概要 |
アルギニン残基に富む両親媒性α-ヘリックス構造型ペプチドのA2-17は、自発的かつ効率的に細胞膜を通過し、細胞内へ移行する。 本年度では、ペプチドの両親媒性度の指標である疎水性モーメントが異なる複数のA2-17構造異性体を設計し、それらの膜摂動力(脂質膜の硬さを低下させる度合い)を、昨年度に確立した原子間力顕微鏡法によって、定量評価した。その結果、疎水性モーメントの増加に伴う膜摂動力の上昇を明らかにした。 一方、共焦点レーザー顕微鏡法およびフローサイトメトリー法によって、蛍光標識したA2-17およびA2-17異性体の細胞内動態を解析したところ、疎水性モーメントの増加とともに、細胞膜透過効率が向上する傾向が示された。しかし、A2-17よりも疎水性モーメントおよび膜摂動力が高いA2-17 構造異性体(A2-17 L14R/R15L)の細胞膜透過性は、A2-17と同等以下であった。また、A2-17 L14R/R15Lは、細胞の辺縁部に蓄積する傾向があり、細胞膜を損傷することが判明した。関連して、分光学的および電気生理学的手法を用いた実験結果から、A2-17 L14R/R15Lの「脂質膜の疎水部への結合性」および「安定な膜孔の形成を誘起する性質」が、他の構造異性体よりも顕著であることを明らかにした。 以上は、「A2-17の高い細胞膜透過性は、細胞脂質膜に与えられる最適な摂動に由来する」という膜摂動機構を裏付ける成果であり、国際学術雑誌Scientific Reportsに論文が掲載された。また本成果は、細胞膜透過性が高くかつ細胞毒性の低い薬物キャリアペプチドの開発や中分子ペプチド医薬品の膜透過性の制御のために、AFMによって定量可能な膜摂動力が有用な指標になりうることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究において、明らかにすべき主要な点として設定していた「両親媒性α-ヘリックス構造型ペプチドA2-17の物理化学的特性-膜摂動力-細胞膜透過性-細胞毒性に関する定量的な関係」を、新規評価法の構築とともに明らかにし、その論文化を達成した。さらに、3年目に予定していた特殊ならせん構造の導入効果を検証するためのペプチドの設計・合成に2年目の後期から着手しており、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度では、膜摂動機構に関する更なる知見を得ると同時に、「高い細胞膜透過性を示すペプチドを開発するためには膜摂動力を最適化する必要がある」という本研究が提案する方法論を検証する。そのために、ヘリックス構造を安定化するステープルまたはスティッチ化学修飾をA2-17に適用して疎水性モーメントを向上させ、それらの膜摂動力、細胞膜透過性および細胞毒性への影響を明らかにする。さらに、上記の方法論で開発される細胞膜透過ペプチドの薬物キャリアとしての応用を検討するために、A2-17あるいはA2-17誘導体による高分子薬物(例:核酸)の細胞内デリバリー機能について試験する。
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次年度使用額が生じた理由 |
オープンアクセス国際誌ジャーナルでの受理が年度末となり、出版費用として確保していた金額分の書類手続きが間に合わず、次年度での使用に回すことにした。
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