研究課題/領域番号 |
20K15984
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
川名 裕己 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 特任助教 (40846672)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | リン脂質sn-1位 / リゾリン脂質アシル基転移酵素 / ステアリン酸 / オレイン酸 / 網膜変性 / 神経細胞形態 |
研究実績の概要 |
本年度はsn-1位導入リゾリン脂質アシルトランスフェラーゼ(LPLAT)欠損体における変動リン脂質分子の解析並びに表現型の探索を行った。 ①LPGAT1欠損体の解析:LC-MSによるリン脂質解析から主要なリン脂質であるホスファチジルコリン(PC)などにおいてC18:0(ステアリン酸)を含有する分子種の顕著な低下がLPGAT1欠損マウスの様々な組織で観察された。このような脂質変動はLPGAT1欠損ゼブラフィッシュ・ヒト培養細胞でも認められたことからLPGAT1はC18:0(ステアリン酸)を含有するリン脂質の形成に必須の因子であることが明らかとなった。また、欠損体の表現型探索の結果、LPGAT1欠損マウスは進行性の網膜変性を自然発症し、成長過程において視覚機能を失うことが判明した。この現象はLPGAT1欠損ゼブラフィッシュでも観察され、種を越えて保存されていた。LPGAT1欠損ヒト培養細胞の解析からは培養時に脱脂質化処理を行った血清で培養すると欠損体が顕著な増殖異常を示すことが明らかとなった。 ②LPEAT2欠損体の解析:LPEAT2は消化管や脳などの中枢神経において発現が限局していることからそれらの組織においてリン脂質解析を行った。その結果、脳においてsn-1位にC18:1(オレイン酸)を含有すPC分子種の低下がLPEAT2欠損マウスにおいて観察された。MS-imaging(質量分析イメージング)解析を行うとC18:1(オレイン酸)を含有するPCは海馬や小脳のプルキンエ細胞層周囲に濃縮していることが明らかとなった。またゴルジ染色法により神経細胞形態を可視化して観察するとLPEAT2欠損マウスにおいて神経細胞の形態の異常が観察された。このことからLPEAT2はsn-1位にC18:1(オレイン酸)を含有するPCの産生を介して神経細胞の形態制御に関わることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでにin vitroでリン脂質のsn-1位に脂肪酸を導入する活性を見出していたLPGAT1やLPEAT2に関して欠損体のリン脂質解析からこれらの酵素が内在性のリン脂質合成において寄与していることが明らかになった。このことにより実際にsn-1位にC18:0(ステアリン酸)やC18:1(オレイン酸)含有するリン脂質を低下させた個体の解析ができることを見出せた。またLPGAT1欠損によるC18:0(ステアリン酸)含有リン脂質の低下は網膜変性をきたすこと、LPEAT2欠損によるC18:1(オレイン酸)含有リン脂質の低下は脳の神経細胞の形態異常をきたすことなど個体レベルでの表現型を明らかにすることができた。培養細胞レベルにおいてもLPGAT1に関しては特定条件下での増殖異常などを見いだしつつある。これらの解析からsn-1位に特定の脂肪酸を有するリン脂質分子種により制御される生理機能が存在することを明らかにできた。
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今後の研究の推進方策 |
C18:0(ステアリン酸)含有リン脂質形成に関わるLPGAT1、C18:1(オレイン酸)含有リン脂質形成に関わるLPEAT2に関してはマウス、ゼブラフィッシュ、ヒト培養細胞のそれぞれの欠損体樹立が完了しており、引き続き表現型の探索を進める。C16:0(パルミチン酸)含有リン脂質形成に関わるLPCAT1に関しても同様に欠損体の解析から表現型を見出す。 すでに表現型として見いだしたLPGAT1欠損体の網膜変性やLPEAT2欠損体の神経細胞の形態異常に関しては詳細な表現型の解析を進めつつ、責任リン脂質の同定を目指して特定のリン脂質分子の導入による表現型の回復が認められるか解析する。また、分子メカニズムの解明に着手する。すでにいくつかのの欠損体に関してはRNA-seqによる網羅的な発現変動解析、また膜タンパク質のプロテオミクス解析に着手しており、特定のリン脂質分子種の低下がもたらす発現レベルまたは膜タンパク質の安定性に関して候補分子の抽出を行なっている。候補分子に関してsn-1位に特定の脂肪酸を有するリン脂質分子との相互作用を解析して分子レベルでのメカニズム提唱を目指す。
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