研究実績の概要 |
1本のみの脂肪酸鎖を有するリン脂質「リゾリン脂質」はGタンパク質共役型受容体を作動させ、多様な生理活性を示す脂質メディエーターである。本研究では、これらのリゾリン脂質受容体群が免疫系組織・細胞においても発現することに着目し、その免疫制御機能の解析を行った。 マウス膝窩リンパ節のin situ hybridizationによりmRNA発現が見られたリゾホスファチジン酸(LPA)の受容体(LPA1, LPA2, LPA5, LPA6)、リゾホスファチジルセリン(LysoPS)の受容体(LPS1, LPS2, LPS3)、ならびにリゾホスファチジルイノシトール/グルコース (LysoPI/Glc)の受容体(GPR55)の一連の欠損マウスに対して、TNP-オボアルブミンをモデル抗原とする外来抗原投与モデルを適用した。その結果、既に免疫調節機能が明らかになっていたLPS2, LPS3に加えて、LPA1, LPA2, LPA6, LPS1においても顕著な免疫細胞数・ポピュレーションの変動が見られた。興味深いことに、LPA2ならびにLPS1の欠損マウスでは免疫応答の減弱傾向、逆に、LPA1, LPA6の欠損マウスでは亢進傾向が見られ、同一のリゾリン脂質をリガンドとする受容体の間でも相反する作用を示す、すなわち、「リガンド・受容体の使い分け」機構の存在が示唆された。 これらの受容体のうち、LPA1、LPS1、LPS2/2Lについて、同モデルにおける薬理学的作動/阻害実験を実施した。その結果、LPS1の作動薬を連日投与した個体群では、欠損マウスと逆の表現型(免疫応答の増大)が見られた。LPA1、LPS2/2Lについても、同様の知見が得られている。すなわち、リゾリン脂質受容体の選択的が作動/遮断によって、場面に応じた免疫増強・制御が可能である、魅力的な創薬ストラテジーの可能性を示唆している。
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