研究課題/領域番号 |
20K15989
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
伊原 大輔 富山大学, 学術研究部薬学・和漢系, 助教 (20804561)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 遺伝子発現 / シナプス / 転写因子 / SRF / MRTF / MKL |
研究実績の概要 |
転写因子を介した最初期遺伝子群(IEGs; immediate-early genes)の発現は、神経可塑性の基礎過程として重要である。転写因子SRFは、脳形成と機能に重要であり、そのコファクターの1つがMRTFである。MRTFは脳に高発現しているが、遺伝子発現におけるMRTFの機能については未解明な点が多い。 申請者らは最近、MRTFファミリーの1つ・MRTFBがシナプス可塑性関連遺伝子の1つArcのエンハンサー活性化に関わることを報告した。さらに最近、神経細胞のシナプス活性化が、MRTFBの核移行を引き起こすことを発見した。つまり“MRTF-SRF経路”は、記憶・学習に重要な“シナプスから核へ”の情報伝達を担う新規の経路であると強く示唆される。 本研究では、様々な阻害剤を用い、シナプス活性化によるMRTFBの一過的な核移行が神経活動やRhoシグナリングに依存していることを明らかにした。遺伝子発現について、シナプス活性化によるIEGの1つ・junB遺伝子の発現誘導は、NMDA受容体、L型電位依存性Ca2+チャネルの阻害剤により抑制された。また免疫染色の結果、ポストシナプスのマーカーPSD95とMRTFBの共局在性が低下することを確認した。また予備的ではあるが、核移行に関与するドメインを欠損させたMRTFBの過剰発現により、シナプス活性化によるSRF介在性の転写活性化は減弱した。さらにChIP-Seq解析の結果、シナプス活性化によりMRTFBの集積が増加する遺伝子が複数判明した。 このように、MRTFBの核移行とSRF介在性の遺伝子発現にはほぼ整合性があり、新規の“シナプスから核へ”のシグナリング機構“MRTF-SRF経路”が実証されつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要の欄で述べた通り、シナプス活性化によるMRTFBの一過的な核移行とSRF介在性の転写活性化様式はほぼ整合性のある結果であった。また、免疫染色にてMRTFBのポストシナプスへの局在性についても検証できた。さらにChIP-Seqによる網羅的な解析の結果、シナプス活性化によりMRTFBの集積が増加する遺伝子を同定できた。以上の点から、本年度の研究の達成度はおおむね順調に進展している、と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
ChIPシークエンスの結果、シナプス活性化によりMRTFBの集積が増加すると判明した遺伝子を対象に、MRTFB核移行を阻害するCCG-1423を併用した際の発現変化について、定量的PCRによる検証を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の分子生物学的実験を行うにあたり、すでに購入していた消耗品を使用したため。
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備考 |
富山大学薬学部分子神経生物学研究室ホームページ http://www.pha.u-toyama.ac.jp/bioche1/index-j.html
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