研究課題/領域番号 |
20K15990
|
研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
川口 甲介 富山大学, 学術研究部薬学・和漢系, 助教 (80624866)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | ABCタンパク質 / リソソーム / ビタミンB12 / メタノール資化性酵母 / プロテオリポソーム再構成 |
研究実績の概要 |
リソソームから細胞質へのビタミンB12輸送における、ABCタンパク質ABCD4およびリソソーム膜タンパク質LMBD1の役割について解析を行い、以下に示す結果を得た。 1.タグを付加した融合タンパク質His-ABCD4とLMBD1-GSTを、それぞれメタノール資化性酵母を用いて異種発現し精製した。ABCD4を含むリポソーム内にビタミンB12を封入し、ATPを加えてインキュベートしたのち、プロテオリポソームを回収してビタミンB12を定量した。すると、内部のビタミンB12量は時間依存的に減少していた。ATPase活性を失った変異型ABCD4はビタミンB12輸送活性を持たなかったことから、ABCD4がATPase活性依存的にビタミンB12をリポソーム外に輸送することを明らかにした。精製したLMBD1-GSTを用いて同様の実験を行ったが、ビタミンB12の輸送は観察されなかった。 2.ABCD4の基質認識部位を解析するために、ABCD4の膜貫通領域を同じファミリー分子であるABCD1と置換したキメラタンパク質を作製し、変異型ABCD4のビタミンB12輸送活性を測定した。その結果、6番目の膜貫通ヘリックスを置換した変異型ABCD4のビタミンB12輸送活性が著しく減少することを明らかにした。 3.ビタミンB12代謝異常の原因となる変異型N141K、Y319Cを作製し解析を行った。初めに哺乳動物細胞内におけるこれらの変異型の細胞内局在を解析したところ、どちらの変異型もリソソームに局在化していることを明らかにした。続いて、各変異型ABCD4を精製し機能解析を行ったところ、N141K はビタミンB12輸送活性のみを、Y319C は ATPase 活性、ビタミンB12輸送活性を共に失っていた。さらに変異体を作製して解析を行った結果、N141K ではリジンへの変異によって正電荷を帯びること、Y319C では芳香族アミノ酸が失われることが、ビタミンB12輸送活性を失う原因であることを明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.ABCD4およびLMBD1が関与するビタミンB12輸送機構について解析が進んだ。ABCD4がビタミンB12をリポソームの内側から外側へと輸送することから、ABCD4がリソソーム内から細胞質へ基質を輸送する“インポート型”のABCタンパク質であることを明らかにした。また、ABCD4の6番目の膜貫通ヘリックスに基質認識に重要な領域が存在することを明らかにした。LMBD1 の機能不全もリソソームへのビタミンB12蓄積の原因となるが、LMBD1 はリソソーム膜上でのビタミンB12輸送には関与しないことを明らかにした。 2.ビタミンB12代謝異常の原因となる変異型ABCD4(N141K, Y319C)について解析を行い、これらの変異型ABCD4がビタミンB12輸送能を失う機序について明らかにした。
|
今後の研究の推進方策 |
2020年度の進展状況を踏まえ、以下の項目を中心に解析を行う。 1.ABCD4の基質認識部位の同定:ABCD4の6番目の膜貫通ヘリックスが基質認識に重要であるという結果が得られたので、ABCD1との置換領域を狭めた変異体やABCD1とアミノ酸の性質が大きく異なる領域に着目し、ABCD4変異体を作製し、ビタミンB12輸送活性の評価を行う。これらの実験により、ABCD4の基質認識に重要なアミノ酸を同定する。 2.輸送におけるLMBD1の役割解明:LMBD1はリソソーム膜上でのビタミンB12輸送には関与しない。一方で、LMBD1は、多くのプロテアーゼをもつリソソーム膜上でのABCD4の安定化に寄与することが推定される。ABCD4は糖鎖修飾を受けないため、LMBD1の糖鎖修飾が重要であると考える。野生型もしくは糖鎖修飾部位に変異を入れた変異型LMBD1とABCD4を哺乳動物細胞に導入し、リソソーム阻害剤有無での導入したタンパク質の安定性を比較する。これにより、LMBD1のリソソーム膜上でのABCD4の安定化への寄与について評価する。 3.遺伝子疾患で見られるビタミンB12輸送障害の機序の解明:これまでにビタミンB12輸送障害の原因としてABCD4遺伝子では7パターン、LMBD1遺伝子では6パターンの変異が報告されている。各変異型タンパク質をコードする発現ベクターを作製し、哺乳動物細胞の実験系により、変異型ABCD4および変異型LMBD1の細胞内局在や安定性を評価する。メタノール資化性酵母を用いた実験系により、変異型ABCD4のATPase活性およびビタミンB12輸送活性を評価する。これらの実験により、各遺伝子変異により生じるビタミンB12輸送障害の機序を解明する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
論文掲載料を考えていたが、年度内に論文が受理されなかったため、次年度使用額が生じた。 使用計画としては、試薬の購入と、英語論文の掲載料に支出する。また,国内の学会参加費も支出予定である。
|