研究実績の概要 |
本研究の目的は、記憶学習能力を向上させる抗酸化アミノ酸ergothioneine (ERGO)の作用機序を解明することにより、新規の記憶学習制御機構の発見につなげることである。ERGOあるいは溶媒を投与し、行動試験で記憶学習能力向上の認められたマウスの海馬における網羅的トランスクリプトーム解析により記憶に関連する候補遺伝子を複数見出した(既に記憶学習との関連が報告されているNeurog1やNpas4等も含む)。その候補遺伝子の発現を抑制するsiRNAを培養神経細胞に導入した際に、神経突起伸長を促進する遺伝子を見出した。さらに候補遺伝子の中で、ある膜輸送体をコードする遺伝子Xに着目し、以下の機能解析を行った。発現を抑制するshRNA及び緑色蛍光蛋白質を発現するAAV-shRNA-Zsgreen1を、記憶を司る海馬歯状回 (Bregma: AP, -1.94 mm; ML, ±1.0 mm; DV, -2.2 mm)に注入することで脳部位特異的な遺伝子発現抑制を行い、緑色蛍光陽性の神経細胞の突起の長さを測定したところ、対照群と比較し、遺伝子Xに対するAAV-shRNA-Zsgreen1感染群で、神経突起の長さが有意に長かった。さらに、記憶学習能力を新奇物体認識試験(NORT)により評価したところ、物体認知記憶の向上傾向が認められた。今後、遺伝子Xの海馬歯状回特異的発現抑制による空間記憶や作業記憶などへの影響も評価していく。遺伝子Xは、膜輸送体をコードするがその輸送基質は未だ不明であるため、今後、遺伝子Xの過剰発現細胞、あるいは過剰発現Xenopus laevis oocyteを利用したメタボローム解析により輸送基質の同定に取り組む予定である。他の候補遺伝子についても同様の解析を実施する。
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