研究課題/領域番号 |
20K15992
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
長田 夕佳 金沢大学, 薬学系, 助教 (80802016)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | マスト細胞 / 単球 / マクロファージ / 外来抗原情報 / アレルギー |
研究実績の概要 |
申請者は、外来抗原情報に応じたマスト細胞と単球の細胞間相互作用機構の解析にあたり、まずin vitro共存培養システムを確立した。マスト細胞と単球は、いずれもマウス骨髄細胞から分化誘導や単離を行った。本年度は、この共存培養システムを用い、マスト細胞の抗原刺激応答が単球の分化・増殖や遊走性に与える影響を解析した。 抗原刺激由来のマスト細胞活性化は、単球の生存を促し、単球からマクロファージへの分化を誘導した。マスト細胞に抗原刺激を与えると、共存する単球において各種マクロファージマーカー分子の顕著な発現上昇が観られた。申請者の所属研究室では、マスト細胞が抗原情報(親和性)を認識し、質的に多彩な応答を示すことを明らかにしている。そこで、次に申請者は、抗原情報の異なる高親和性・低親和性抗原でマスト細胞を刺激し、誘導されるマクロファージの性質や機能の違いを評価した。その結果、マスト細胞の刺激応答によって、誘導されるマクロファージのサブタイプが異なることが明らかとなった。さらに、トランスウェルシステムを用いて、マスト細胞との共存培養条件下で遊走性を示す単球のサブタイプを解析した。マウス骨髄単球は常在型と炎症型に大別され、マクロファージの前駆体として重要な役割を果たす。単球の遊走解析より、マスト細胞の刺激応答によって、遊走性を示す単球のサブタイプにも違いがあることを明らかとした。 以上のことから、本年度の研究は、外来抗原情報を認識したマスト細胞の多彩な応答が単球・マクロファージの分化や機能調節に密接に関与する可能性を示唆した。今後は、その詳細な機構やアレルギー性炎症における病態生理学的意義の追究を課題とする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、マスト細胞と単球の共存培養システムを確立し、これを両細胞の相互作用解析の基盤技術とした。マスト細胞は、骨髄細胞を成長因子等の存在下で培養することで分化を誘導した。単球は、骨髄細胞からマグネットビーズを使ったネガティブセレクション法より単球以外の細胞を取り除くことで単離した。このシステムを柔軟に応用して各種解析を行った。共存培養システムと顕微光学技術を組み合わせることで、他の細胞などの影響がない条件にて、生細胞・1分子イメージングなどの細胞間相互作用の実体や分子機構の解析が可能となった。また、共存培養システムとトランスウェルによる遊走アッセイを組み合わせることで、マスト細胞応答に起因した単球・マクロファージの遊走性の評価が可能となった。特に、単球の遊走アッセイより、マスト細胞は抗原刺激(高親和性・低親和性)に応じて、異なるサブタイプの単球を選択的に誘引することが明らかになった。この知見は、マスト細胞によるマクロファージのサブタイプ制御とも相関している可能性が考えられ、今後の研究の指針となり得るものであった。以上の理由から、おおむね順調であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの結果成果を踏まえ、次年度は、マスト細胞と単球の相互作用について、細胞間情報伝達の分子機構の解析とアレルギー性炎症調節作用の検証を行う。 まず、マスト細胞と単球の細胞間情報伝達の分子機構の解析を行う。マスト細胞が分泌する炎症性メディエータ(液性因子)の分泌バランスを評価し、単球・マクロファージのサブタイプ制御に与える影響を明確にする。また、二つの細胞接触面において形成が示唆される免疫シナプス(接着因子)の検出と機能解析を試みる。共存培養システムと顕微光学技術を組み合わせ、接着分子などの局在変化や細胞間情報伝達の場となる免疫シナプスの検出と機能解析を目指す。 次に、in vivoアレルギー疾患モデルによるアレルギー性炎症調節作用の検証を行う。アレルギー炎症の慢性疾患モデル(アレルギー性皮膚炎)や急性疾患モデル(アナフィラキシー)を作製し、マスト細胞と単球・マクロファージの相互作用を病理組織学的に検証する。さらに、マスト細胞欠損マウス(W/Wv)、単球欠損マウス(抗Ly6C抗体投与)、およびマクロファージ欠損マウス(クロドロン酸リポソーム投与)を用いて、マスト細胞と単球・マクロファージの相互作用の病態生理学的な役割を検証する。 以上のことから、抗原情報を認識したマスト細胞応答による単球・マクロファージのサブタイプ制御の分子機構とこれに起因するアレルギー性炎症調節作用の解明を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度、計画当初に購入を予定した試薬類の使用量が減少したことより、次年度使用額が生じた。翌年度分として、細胞単離・精製のための試薬購入の一部として用いる。
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