研究課題/領域番号 |
20K15996
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
鈴木 美希 静岡県立大学, 薬学部, 助教 (00740200)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 情動記憶 / 海馬 / 亜鉛イオン / カルシウムイオン / ノルアドレナリン / グルココルチコイド |
研究実績の概要 |
恐怖などの情動体験は記憶され強く残る。そのメカニズムには、青斑核や交感神経系の活性化により分泌されるノルアドレナリン(NA)ならびにそれらの活性化に伴い副腎皮質から分泌されるグルココルチコイド(GC)が海馬や扁桃体で作用することが関与する。認知機能を担う海馬の細胞外グルタミン酸シグナルはその受容体を介して細胞内Caイオンシグナルだけでなく、同時に細胞内亜鉛イオンシグナルも誘導する。これまで申請者らは、扁桃体や海馬において細胞内亜鉛イオンシグナルは記憶に必要である一方で、過剰な亜鉛イオンシグナルは記憶を障害することを示した。そこで、本研究では、情動記憶の形成には、GCならびにNAが海馬細胞内外において亜鉛イオン動態を変化させ、情動記憶を強化すると仮説を立て、証明する。記憶形成における重要性が広く認識されているCaイオンだけでなく、シナプス肥大化のシグナルやその構成因子としても重要である亜鉛イオンにも着目することで、トラウマ記憶形成にも関与するとされる情動記憶が強化されるメカニズムを明らかにする。 本年度は、NAやGCによって海馬細胞内亜鉛イオンレベルが変化することで記憶形成が強化されるのかを検討するために、海馬においてアドレナリンβ受容体活性化条件でGCを負荷し、記憶の分子メカニズムである長期増強LTPを誘導し、それらが強化されるのか、亜鉛イオンはその強化に関与するのかを解析した。その結果、アドレナリンβ受容体活性化条件でのみGCはLTPを増大させ、その増大には海馬細胞外から細胞内への亜鉛イオン流入が関与することが示された。また、アドレナリンβ受容体活性化条件では、GCによる海馬細胞内亜鉛イオンレベルの増加が抑制され、むしろ減少傾向であることが明らかとなった。今後は、細胞内亜鉛イオンレベルの減少と記憶強化との関連性を分子レベルでの検討も併せて解析する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
情動記憶が強化される詳細なメカニズムの解明には至っていないものの、情動記憶に関与するノルアドレナリンやグルココルチコイドによって記憶の分子メカニズムであるLTPの誘導が強化されること、その強化には海馬細胞外から細胞内へ流入した亜鉛が関与することが示された。また、今年度に計画していた、グルココルチコイドやノルアドレナリンによる海馬の亜鉛イオン動態の変化も明らかにし、海馬細胞外から細胞内へ流入した亜鉛イオンは、細胞内で効率よく利用されることで記憶を強固に形成するのではないかと考えられる知見を得た。ノルアドレナリンやグルココルチコイドによって記憶形成に関与する因子であるグルタミン酸受容体やCaMKIIのリン酸化が変化し、その変化に亜鉛イオンが関与するのかを解析し始めており、おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
アドレナリンβ受容体活性化によりグルココルチコイドは細胞外から細胞内へ亜鉛イオンを流入させ、海馬細胞内での亜鉛の利用を亢進させ、シナプスの可塑的な変化に重要であるとされるシナプス肥大を亢進させると考えられる知見が得られている。それらの詳細を明らかにするために、海馬スライスにアドレナリンβ受容体活性化条件でグルココルチコイドを添加した後にLTPを誘導し、ホモジナイズし、ウエスタンブロッティングにてグルタミン酸受容体やCaMKIIのリン酸化の促進やそれらへの亜鉛イオンの関与を検討し、記憶の強化にどのように亜鉛イオン動態の変化が関与するのか分子レベルで解析する。さらに、Caイオンシグナルとも比較しながら検討する。また、ラットへの恐怖体験負荷により同様のことが生じるのか、さらにはグルココルチコイド分泌が変化する慢性ストレス負荷や新規環境ストレス負荷でも比較検討を行うことで記憶が強固に形成される機構をCaや亜鉛イオンに着目して検討する。そして最終年度に実施予定であるPTSD発症モデルとされるSPSストレス負荷を用いた検討に展開していく。
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