研究課題/領域番号 |
20K15999
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
田中 融 日本大学, 薬学部, 助教 (30823702)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | KANSL1 / タウ / 核酸医薬 / アルツハイマー病 / 翻訳調節 |
研究実績の概要 |
tKANSL1 mRNAはtau mRNAの3’-UTRと相補的な配列をもつ、従来のKANSL1 mRNAとは異なる新奇スプライスバリアントである。tKANSL1は既知のKANSL1と比べてC末端側のアミノ酸配列が異なっている。KANSL1の機能として、核内におけるヒストンのアセチル化に関わることが知られている。この機能発現には、KANSL1のC末端領域が重要であり、tKANSL1は既知KANSL1とは異なるタンパク質との相互作用が考えられる。近年、樹状突起でのtauの蓄積にアセチル化が関与していることが報告され、tKANSL1 mRNAはtau mRNAの樹状突起輸送・局所翻訳に加えて、このtauアセチル化過程にも関わり、tauの樹状突起蓄積や凝集を促進している可能性がある。本研究はtau mRNAの3’-UTRと相補的な領域を持つ、tKANSL1 mRNAのtau mRNAの細胞内分布および翻訳活性に与える影響を解析し、アルツハイマー病発症の原因分子であるtauの樹状突起蓄積を阻害する核酸医薬を探索することを目的とする。 令和4年度は、マウスの海馬由来初代培養神経細胞を用いてtKANSL1 mRNAの機能解析を開始した。まず、マウスtKANSL1 mRNA全長を発現するベクターを調製した。これを神経細胞に遺伝子導入操作を行ったが、tKANSL1 mRNA全長の分子量は非常に大きいため、発現ベクターを上手く遺伝子導入することができなかった。そこで、tKANSL1 mRNAの中で、tau mRNAの3’-UTRと相補的な領域だけを発現するベクターを構築した。現在このベクターを用いて神経細胞内でのtau mRNAの分布および翻訳に与える影響を解析している。また、tauの樹状突起内凝集機構に関して、第45回 日本分子生物学会年会と日本薬学会 第143年会において発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和4年度は、マウスの海馬由来初代培養神経細胞を用いてtKANSL1 mRNAの機能解析を行い、さらにtau mRNAとtKANSL1 mRNAの相互作用を阻害するアンチセンスオリゴヌクレオチドをスクリーニングする計画であった。しかし、神経細胞に対する遺伝子の導入効率が想定よりも低く、上手く解析が行えなかった。そのため、マウスtKANSL1 mRNAの中でtau mRNAの3’-UTRに相補的な領域のみを発現するベクターを構築する必要に迫られた。このベクターを調製するのに多くの時間を要したため、当初計画よりも遅れてしまっている。この遅れを挽回すべく、現在構築したベクターを用いてtau mRNAの翻訳活性と神経細胞内分布に与えるtKANSL1 mRNAの影響の解析に加えて、アンチセンスオリゴヌクレオチドのスクリーニングを並行して解析している。 新たに構築したベクターを神経系の株化細胞に遺伝子導入したところ、このベクターでもtau mRNAの翻訳活性が増加することが確認できた。したがって、この新たに構築したベクターでも神経細胞内でのtKANSL1 mRNAの機能を解析できると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度では令和4年度の遅れを挽回すべく、マウスの海馬由来初代培養神経細胞を用いたtKANSL1 mRNAの機能解析とtKANSL1 mRNAとtau mRNAの相互作用を阻害する核酸医薬のスクリーニングを行う。令和4年度、新たに調製したtau mRNAの3’-UTRに相補的な領域のみを発現するベクター(as-3’-UTR)を遺伝子導入し、tau mRNAの細胞内分布および翻訳活性に与える影響を解析する。さらにタウの蓄積や凝集に関わるとされるリン酸化タウやアセチル化タウの樹状突起内発現量変化についても解析を行う。核酸医薬のスクリーニングについては、現在DNAのアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)を用いて行っている。神経系の株化細胞であるNG108-15細胞に、as-3’-UTRとtau mRNAの発現ベクターを遺伝子導入後、tKANSL1 mRNAに対するASOを導入し、tauタンパク質の発現量を効果的に抑えるものを探索している。現在、それぞれのASOの単一での効果を解析しているが、さらに複数種類を組み合わせた効果についても検討していく。また、DNAのASOだけでなくRNAのASOなどについても検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和4年度に予定していた、マウス海馬由来初代培養神経細胞にtKANSL1 mRNAの全長を発現するプラスミドの導入効率が予想以上に低く、神経細胞内でのtau mRNAの細胞内分布や翻訳に対するtKANSL1 mRNAの影響の解析が困難となった。そのため、遺伝子導入効率を上げるために、tKANSL1 mRNA分子中のtau mRNAと相補的な領域のみを発現するベクターを調製し、さらにこれがtau mRNAに対してtKANSL1 mRNA全長と同様の働きを示すことを神経系株化細胞で確認を行った。この一連の実験に時間を要したため、神経細胞内におけるtKANSL1 mRNAの機能解析に加えて、tau mRNAとtKANSL1 mRNAの相互作用を阻害するアンチセンスオリゴヌクレオチドのスクリーニングがあまり進められず、これらの解析に用いる予定であった金額を次年度使用額として計上させていただいた。令和5年度では、まず神経細胞内におけるtau mRNAに対するtKANSL1 mRNAの影響の解析およびアンチセンスオリゴヌクレオチドのスクリーニングを並行して行い、前年度の遅れを取り戻す。その後、当初計画通り有望なアンチセンスオリゴヌクレオチドについて詳細な解析を行う計画である。
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