研究課題/領域番号 |
20K16004
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研究機関 | 神戸薬科大学 |
研究代表者 |
田中 亨 神戸薬科大学, 薬学部, 特任助教 (50806065)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 血管内皮細胞 / 遺伝子発現 / エピジェネティクス |
研究実績の概要 |
エピジェネティック制御とは塩基配列の変化を伴わず遺伝子発現を制御する機構であり、主にDNAメチル化とヒストン修飾が知られる。これらの修飾は未分化細胞の分化過程で劇的に改変され、分化後の細胞特異性を生み出している。血管内皮細胞においてもエピジェネティック修飾が内皮細胞特異的な遺伝子の発現を制御し、内皮細胞の特徴を生み出していることが報告されている。研究代表者はヒストン修飾に着目し、ES細胞内皮細胞分化系を用いて種々のヒストン修飾因子阻害剤の効果を検証したところ、血管新生や血圧調節に関わるApelinの受容体AplnrのmRNA発現がClass I HDAC阻害剤によって増加し、Class II HDAC阻害剤およびヒストンメチル化酵素阻害剤では変化しないことを見いだした。APLNRはGタンパク質共役型受容体であり、ApelinやElabelaなどのリガンドの結合によって活性化される。APLNRシグナル伝達系は胎生期においては血管形成や心臓形態形成に寄与することが知られている。また、成獣においては血管修復、血圧や心収縮性の調節を担っており、高血圧症や心不全のモデルマウスにリガンド投与することで改善が見られることから、APLNRが新たな治療標的として注目されている。そこで本研究では血管内皮細胞におけるAPLNR遺伝子の発現制御機構、特にヒストン修飾の意義の解析を試みた。 HDACのsiRNAを用いてノックダウン実験を行なったところ、HDAC1およびHDAC2の発現抑制によってAPLNR遺伝子の発現が顕著に増加した。また、シグナル伝達阻害剤を用いた解析を行なったところ、あるシグナル伝達系がAPLNR遺伝子の発現を抑制することが示唆された。以上のことから、このシグナル伝達系を介してHDAC1/2がAPLNR遺伝子発現を抑制している可能性が考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度の結果からHDAC1/2がAPLNR発現を制御する結果が得られている。また、シグナル伝達阻害剤を用いた解析によりAPLNR発現の制御に関わるシグナル伝達系を見出してきた。令和3年度ではこのシグナル伝達系がAPLNR遺伝子発現を抑制する分子機構を解析するため、このシグナル下流で発現が誘導され、機能することが知られている分子のノックダウン実験を行なった。その結果、ある転写因子のノックダウンによりAPLNR発現が増加したことから、シグナルを介してある転写因子によってAPLNR発現が制御されていることを見出しており、概ね順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度では、HDAC1/2とAPLNR遺伝子を抑制するシグナル伝達系との関連性について解析する予定である。今回見出したシグナル伝達下流で働く転写因子とHDAC1/2との相互作用を共免疫沈降法により解析する。転写因子のEnhancerへの結合、HDACのEnhancerへのリクルートをChIP assayにより検証する。また、HUVECにおける転写因子のノックダウンによるHDACのEnhancer結合とAPLNR発現の変化を検討する。 さらに、転写因子のノックアウトマウスを用いてAplnr発現が変化するかを免疫染色による組織学的解析およびMACSにより単離したCD31+内皮細胞を用いたリアルタイムPCR、Western blot解析により検討していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度に計画していた実験についてはあらかじめ準備していた実験試薬の使用により概ね順調に進んだため、予定していた試薬の購入のための支出の減少、コロナ禍による学会開催がリモート化したことによる旅費の減少により、次年度使用額が生じた。次年度では、新たな実験の立ち上げを計画しており、マウスの飼育や抗体、実験Kitなどの実験試薬の購入の補填に充てる予定である。
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