研究課題/領域番号 |
20K16005
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
澤村 晴志朗 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (10781974)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 抗てんかん薬 / リアルタイム定量 / 電気化学 / in vivo計測 |
研究実績の概要 |
てんかん患者の約3割は単一薬の投与では治癒しない難治性で、一般的に多剤投与が試みられる。しかしながら、多剤併用時の薬物濃度と薬効については、ほとんどデータが得られてらず、薬力学的に有効な組み合わせに関する知見は限定的である。このため、生体における併用薬間の相互作用を正確に評価する方法の開発が待ち望まれている。この問題に対処するため、本計画では、最先端の電気化学電極である針状ダイヤモンドセンサを用いて、in vivoにおける複数の抗てんかん薬の脳内薬物濃度と薬効指標である神経活動変化を同時にモニタリングするシステムを創出する。 本年度は、2種類のベンゾジアゼピン系抗てんかん薬について、それぞれの電気化学反応電位の違いに基づき、代謝物との測り分けが可能なリアルタイム測定プロトコルを構築した。この方法では、臨床で求められるモニタリング濃度範囲の未変化体を代謝物と切り分けて十分な精度・感度で同時測定できた。この測定法を用いて、ラット大脳皮質に針状ダイヤモンドセンサを刺入し、静脈に留置したカテーテルから投与した抗てんかん薬のin vivoリアルタイム濃度計測を実施した。その結果、投与後約3分でピーク濃度に達し、その後緩やかに減少するという、抗てんかん薬としての活性を持つ未変化体薬物の脳内動態を測定できた。今後、神経活動変化との同時計測系を開発し、濃度動態と薬効の時間的変化および相関性を明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
全身に投与されたベンゾジアゼピン系抗てんかん薬は、体内の代謝酵素によって複数の代謝物が生成される。そのうち、主要代謝物は、脳内において未変化体と同程度の存在比を示した例もある。一般に、これら抗てんかん薬は代謝されると活性のほとんどを失うため、濃度動態と薬効の関係性を知るためには、活性の主成分である未変化体と代謝物を測り分ける必要がある。しかしながら、分子構造自体はほとんど変わらないため化学分析による識別は難しい場合がある。計画した通り、広い電位幅をスキャンする電気化学測定で未変化体と主要代謝物の反応性を比較し、還元電位における両者の反応性の違いを見出した。この知見をもとに、それぞれを区別して測定するプロトコルを構築した。 また、in vivo計測において、生体由来のノイズや電流値のドリフトが問題となる。これを避けるために、internal controlをセットして、目的薬物の電気化学反応を標準化する方法を構築した。これによって、in vivo脳内計測でも、安定した定量値を得ることができた。 以上より、抗てんかん薬の未変化体と代謝物をin vivoで測り分ける測定系が構築できたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
まず、in vivoにおけるセンサの定量性を評価する。ダイヤモンドセンサによる測定中に少量の脳脊髄液を採取し、LC-MS/MSなどを用いた外部定量法にかけて定量値を比較する。定量性が担保できれば、神経活動との同時測定系を樹立し、薬物動態と薬効の関係性を明らかにする。さらに、2種の抗てんかん薬を同時に投与した際の、それぞれの濃度と薬効との相関を調べる測定にも挑戦する。
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