マウス由来培養マクロファージ細胞(RAW264.7細胞)をシリコンチャンバーに播種して進展装置を用いて機械的進展刺激を負荷すると、細胞外ATP濃度が一過性かつ進展強度依存的に上昇し、TNFαやMCP-1などの炎症性サイトカイン・ケモカインの遺伝子発現レベルが増加した。RAW細胞をUDPやATPで直接刺激した場合もMCP-1の遺伝子発現量が有意に増加した。RAW細胞のP2Y6受容体のsiRNAによるKnock Down(KD)やP2Y6受容体阻害剤の前処理はUDP直接刺激や進展刺激によるMCP-1発現量の増加を有意に抑制した。RAW細胞の機械的刺激受容体PIEZO1の遺伝子をKDした場合も進展刺激によるMCP-1遺伝子の発現上昇は抑制された。ヌクレオチド分解酵素のApyraseで処理したRAW細胞では、UDP直接刺激によるMCP-1の発現量が有意に低下した。一方、伸展刺激によるMCP-1の発現上昇は、Apyrase処理により細胞外ATP濃度上昇が消失したにもかかわらず、抑制されなかった。RAW細胞の進展刺激負荷により、細胞内リン酸化酵素のERKやp38の活性化が認められ、ERKの上流因子であるMEKの阻害剤処理により、進展刺激によるMCP-1の遺伝子発現およびタンパク質産生の増加が有意に抑制された。 以上の結果より、マクロファージは進展刺激を感知して細胞外にヌクレオチドを放出しオートクライン的にP2Y6受容体を介してERKを活性化し、MCP-1などのケモカインを産生する事が示唆された。さらに、P2Y6受容体はリガンド非依存的に機械的刺激を感知し活性化される可能性もあると考えられた。本研究成果は、マクロファージがダイナミックな機械的刺激を受容する組織における病態、すなわち動脈硬化や肺や腸の炎症、心筋梗塞などのような病態の理解と新たな治療戦略の提示につながると期待される。
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