糖尿病網膜症は、強力な血管新生促進作用をもつ vascular endothelial growth factor (VEGF) の過剰産生により病的な血管新生が誘導され、著しい視覚障害や失明に至る疾患である。現在、糖尿病網膜症の治療に抗 VEGF 薬が用いられているが、VEGFが血管の恒常性維持にも重要な役割を担っていることから、正常な血管に対して悪影響を及ぼす可能性が指摘されている。そこで、細胞増殖・生存に関わる分子群の中で、病的な血管においてのみ特徴的に活性化している分子を in vivo において可視化し、その分子のダイナミクスを解析することができるようになれば、正常な血管には影響を及ぼさない病的な血管に対してのみ抑制作用を示す治療薬を開発するために有用であると考えた。本研究では、網膜血管が新生する新生仔期のマウスを用いて、網膜の新生血管における VEGF 受容体の下流シグナル分子について検討を行なった。そして、1) 4 日齢マウスの網膜において、血管内皮細胞、アストロサイト及びミクログリアにおいて VEGF 受容体の下流シグナル分子である ERK のリン酸化が亢進していること、2) MEK 阻害薬投与後に血管内皮細胞と非血管内皮細胞において認められるリン酸化 ERK が消失すること、及び 3) VEGF 受容体阻害薬投与後に血管内皮細胞において認められるリン酸化 ERK が消失することを見出した。
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