研究実績の概要 |
本研究の目的は中枢においてペリサイト選択的に発現するKCNJ8およびABCC9遺伝子から構成されるATP依存性カリウムチャネル(K-ATPチャネル)の脳梗塞時における役割を明らかにし、本ペリサイト選択的K-ATPチャネルに対する選択的作動薬を用いた新規脳梗塞治療の実現である。本目的の達成に向け、本研究期間では野生型マウス、Kcnj8欠損マウス、Kcnj8またはAbcc9活性化変異マウス(Kcnj8C141S,Abcc91151Q)を用いて、脳梗塞後の梗塞領域・神経傷害スコア・脳血流・血管透過性を調べた。脳梗塞の誘導には両側頸動脈結紮を予定していたが十分な脳組織障害を誘導できず、フィラメントの血管内留置による一過性片側中大脳動脈閉塞術による脳梗塞モデルを用いた。45分から1時間の片側中大脳動脈閉塞により、野生型マウスと比較してKcnj8欠損マウスでは梗塞巣および神経傷害の増大が認められるとともに術後数時間から24時間以内に死亡が多く認められた。一方、活性化型変異マウスでは梗塞巣および神経傷害が軽減される傾向が認められ、Kcnj8からなるK-ATPチャネルが脳梗塞後の傷害の軽減に重要な役割を担うことが示唆された。また、エバンスブルーの血中から脳組織への移行を調べることで脳梗塞後の血管透過性を調べた結果、Kcnj8欠損マウスではエバンスブルーの脳組織への漏出は低く、活性化型変異マウスでは増加することが分かった。特に活性化変異マウスでは梗塞巣の中心部でも漏出が顕著である一方、欠損マウスでは梗塞巣中心部での漏出は顕著ではないことから、エバンスブルーの漏出量亢進が梗塞解除後の血流回復領域の差に依存する可能性が提示された。以上の成果はK-ATPチャネル活性が脳虚血直後から必須の役割を持つこと、および虚血再灌流後の血流回復を促す可能性を示唆する結果が得られた。
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