研究実績の概要 |
がん抗原を導入した樹状細胞(DC)により, がん抗原特異的細胞傷害性T細胞を誘導して抗腫瘍効果が期待されるDCワクチンの開発が進められている。しかし, DCワクチンの開発を進めるには, 単核球を採取するためにドナーから大量の採血が必要となり, さらに作製したDCにおいてドナー間での品質のバラツキなど問題点が生じる。またDCワクチンは腫瘍微小環境における免疫抑制分子に影響を受けやすく, 細胞製剤として有効性を保持したまま長期間保存することが困難である。そのため, DCから分泌されるエクソソームを用いることが, これらの課題を克服することが期待されている。しかし, DCからのエクソソーム採取においても同様に大量の血液からDCを作製する必要がある。そこで,細胞株由来のDCを用いて大量のエクソソームを回収する戦略を用いた。複数の細胞株由来DC分化モデルの中で, 急性骨髄性単球性白血病細胞株であるMUTZ-3はDC分化効率が最も高く, In vitroにおいてDCを作製する有益なモデルであることが知られている。MUTZ-3細胞はIL-4またはIFN-αのいずれかのサイトカインとGM-CSF, TNF-α, ミトキサントロンで刺激をすることにより, ヒト末梢血単球からDCへの分化と同様に, 短期間でIL-4-DCおよびIFN-DCに分化することが可能である。これらのDCから放出されるエクソソームは, 細胞株の利点である大規模培養により機能的なDC由来エクソソームの回収が期待できる。エクソソームを用いたネオ抗原由来mRNA導入樹状細胞ワクチンの開発にあたり2種類のMUTZ-3由来DCから分泌されるエクソソームの機能評価を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
MUTZ-3由来のIL-4-DC(M-IL-4-DC)およびIFN-DC(M-IFN-DC)において, DCへの分化後の生存率, 回収量および表現型ではエクソソームの品質を評価するために重要な指標になる。生存率において有意差はなかったが, M-IFN-DCはM-IL-4-DCと比較してDCの成熟度の指標となるCD80, CD86, CD83, CD40, HLA-ABCの発現が有意に高かった(N=6)。これら2種のMUTZ-3由来DC作成後の培養上清からエクソソームを抽出して, Nanosightによる粒子径測定やCD9, CD63, CD81などのエクソソームマーカーの発現をフローサイトメトリーにより確認したところ, エクソソームが分泌されていることが認められた(N=7)。M-IL-4-DC由来のエクソソームと比較して, 抗原提示に関与する表面マーカーであるCD83, HLA-ABCの発現がM-IFN-DC由来のエクソソームで有意に高かった(N=7)。さらにMUTZ-3由来DCから放出されるエクソソームが機能的であるかを評価するためにMART-1ペプチドを直接エクソソームに結合させて健常人から採取したCD8+ T細胞と共培養したところ, M-IFN-DC由来エクソソームにおいて優れたMART-1特異的細胞傷害性T細胞誘導能を示した(N=6)。現在, これらの得られた知見を元に論文投稿中である。
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