研究課題/領域番号 |
20K16020
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
加藤 文博 国立感染症研究所, ウイルス第三部, 主任研究官 (40740816)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | パラミクソウイルス / ムンプスウイルス / 抗ウイルス薬 / CD437 / スクリーニング |
研究実績の概要 |
昨年度に構築した組換えムンプスウイルスを用いたスクリーニング法により、化合物ライブラリーよりスクリーニングを行った。抗ウイルス活性を示し細胞毒性を示さないヒット化合物が複数得られた。この中には脂肪酸合成経路にかかわる化合物は含まれていなかった。一方、レチノイド受容体アゴニストであるCD437が有望なヒット化合物として含まれていた。CD437の抗ウイルス活性メカニズムを解明するために、既知の薬理活性に関連するレチノイド受容体に着目し、構造は異なるが同じ薬理活性を有する化合物を用いて抗ウイルス活性を評価ところ、抗ウイルス活性は示さなかった。また、先行研究でレチノイド受容体依存的にRIG-Iが抗ウイルス活性に関与していることが示されていたが、本研究でRIG-I欠損A549細胞を用いてCD437の抗ウイルス活性を評価したところ、親株A549を用いた時と同様に抗ウイルス活性を示した。これらのことからCD437による抗ウイルス活性は、レチノイド受容体およびRIG-Iに非依存的であることが示唆された。次に、CD437によるウイルス側作用点を同定するために、Time of additionアッセイを行った。その結果、CD437はムンプスウイルス感染の後期過程を阻害していることが類推された。また、ゲノム複製を特異的に解析可能なミニゲノムアッセイやウエスタンブロッティングを用いて一回感染時のウイルス蛋白翻訳への影響を調べたところ、何れもほとんど影響が無いことが明らかになった。一方、ウイルスとCD437を共培養し、経時的に細胞内外のRNA量や感染性ウイルスを定量したところ、細胞内RNA量は陰性コントロールと同様に複製されていたにもかかわらず、細胞外RNAやウイルス力価が低下した。このことから、CD437の作用点はウイルス感染の後期過程であることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度までに構築した組換えムンプスウイルスを用いたスクリーニング系により、実際の化合物ライブラリーのスクリーニングを行い、当初の想定通りのヒット化合物を得ることができた。一方、本研究で着目した脂肪酸合成経路の阻害剤はヒット化合物に含まれていなかった。これは現状では脂肪酸合成経路はパラミクソウイルス感染に強く関与していない可能性を示すものである。他方で、スクリーニングによりヒットした化合物の一つであるCD437の性状解析を進め、ウイルス感染の後期過程を阻害する抗ウイルス薬として候補として見出しただけではなく、従来考えられてきたレチノイド受容体およびRIG-Iに係わる抗ウイルス活性とは異なる新規のメカニズムの存在を示した。さらには、他の薬理活性を示す化合物がヒットしていたことから、これら化合物を解析することで、更なる抗ウイルス薬候補とウイルス複製に関わるメカニズムの解明につながることが予測される。以上により、大目的である新規パラミクソウイルス戦略として道筋をつけていること、および新規ウイルス複製メカニズムの存在を明らかにしたことから、現状の進捗状況はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究により見出されたCD437について、より詳細な抗ウイルス活性メカニズムを明らかにする。また、化合物スクリーニングにより見出された他の化合物の性状解析を行うことで、新規抗ウイルス薬候補としての可能性を明らかにするとともに、その抗ウイルス活性メカニズムを解明することで、ウイルス複製メカニズム自体の解明を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和3年度に使用する細胞培養用の試薬および器具類の一部は昨年度までに購入したものを使用した。また、追加で購入する予定だった化合物ライブラリーの構成内容を見直し、一部が代替のものになったため、次年度での購入になった。
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