新規に開発した多層培養評価系でのアミロイドβ凝集体アミロスフェロイドによる血管障害が、神経細胞のADマーカーであるβセクレターゼ(BACE)およびδセクレターゼ(AEP)を増悪する分子機序の解明に本年度は取り組んだ。血管内皮細胞をアミロスフェロイドで処置することにより増加する神経細胞BACEタンパクの増加は、アンジオテンシン変換酵素阻害薬あるいはAT2受容体アンタゴニス、B2受容体アンタゴニストの処置により阻害されることを見出した。また、BACEタンパクの増加に先立ちBACE mRNAが一過性に増加していることを見出した。これらの発見は、アミロスフェロイドの毒性により血管内皮細胞から遊離したアンジオテンシンII前駆体が、酵素反応により活性化され、神経細胞のAT2受容体への結合とそれに続くB2受容体へのトランスアクティベーションを介してBACE mRNA転写を促進し、その結果BACEタンパクが増加することを示唆している。 本研究では脳血管障害によるAD病態悪化の分子機序の解明に取り組み以下の成果を得た。血管内皮細胞と血管周皮細胞、大脳皮質神経細胞やミクログリア、アストロサイトなどからなる脳初代培養を用いた多層培養評価系を新規に構築した。構築した評価系を用いて、アミロスフェロイド処置による血管内皮細胞の機能障害がアンジオテンシンII遊離-神経細胞AT2受容体-B2受容体を介してBACEタンパク発現量を増加させることを見出した。さらに、アミロスフェロイドは周皮細胞にも作用し、神経でAEPを活性化することを見出した。BACEタンパク増加およびAEP活性化は共に前駆タンパクからのアミロイドβ遊離を促進することから、本研究成果は脳血管障害によるAD悪化の分子機序の一端を解明することに成功したと推察される。
|