細菌の遺伝子には二次代謝産物の生産を担う生合成遺伝子クラスターがコードされている。しかし約80%以上の生合成遺伝子クラスターは通常の研究室培養条件では発現しない休眠遺伝子に分類される。休眠遺伝子を覚醒できれば今まで以上に新規二次代謝産物を獲得できる。本研究ではトランスポゾン変異と細菌由来の細胞外膜小胞(MVs)を利用して休眠遺伝子を活性化し、新規二次代謝産物の獲得を目指す。さらに得られる二次代謝産物を足がかりに休眠遺伝子活性化機構の解明を行う。トランスポゾンを用いる手法では生合成遺伝子クラスターを豊富に含む微生物のゲノムに無作為に遺伝子変異を導入したトランスポゾン変異株ライブラリーを作成する。全変異株の代謝物を解析し、変異株のみに見られる代謝物を単離・構造決定する。MVsを用いる手法では細菌ライブラリーにMVsを添加して培養し、培養液抽出物を得る。MVs有無で生産量に変化のあった代謝物を探索し、単離・構造決定を行う。両手法とも二次代謝産物の取得後はその生合成遺伝子クラスターの特定と当該クラスターの制御因子の探索によって休眠遺伝子活性化機構を理解する。 研究室独自の微生物ライブラリーに収蔵されたいくつかの環境分離株に対してトランスポゾン変異株ライブラリーを作製し、それら変異株の代謝物解析を行った。同時に約100株の細菌にMVsを添加し、有望な二次代謝産物を探索した。複数の細菌種から新規化合物を含む合計14つの二次代謝産物を単離・構造決定した。さらにMVs生産菌と二次代謝産物生産菌間に競争的な相互作用が存在する可能性を示した。
|