研究実績の概要 |
沈香は,精神作用を示す生薬として中医薬や漢方医薬に用いられている。沈香の主な芳香成分として2-(2-フェニルエチル)クロモン類であることが報告されており,沈香が生産する芳香成分の生合成に関わる酵素遺伝子を明らかにすることで,芳香成分を高含量で生産する人工沈香の開発や芳香成分を合成生物学的に生産することが期待される。本年度は,北京中医薬大学の共同研究者らが牙香樹Aquilaria sinensisのカルスの遺伝子発現を精査することで見いだした2-(2-フェニルエチル)クロモン類の基本骨格の構築に関わる新規Ⅲ型ポリケタイド合成酵素diarylpentanoid-producing polyketide synthase (PECPS)のX線結晶構造を精査し,酵素反応に関わると予測されるアミノ酸残基に対して変異を導入し研究を行った。PECPSの変異酵素はHis-tagとの融合蛋白質として大腸菌に異種発現させた。次にNi-キレートカラムを用いて精製した各種酵素について,4-ヒドロキシフェニルプロピオニルCoAを基質とした2-(2-フェニルエチル)クロモン類の基本骨格の生成量を参考として,酵素反応への影響を検討した。変異酵素PECPS Phe340WとAla210Eについては,野生型PECPSと同等の反応性を示した。これらの結果は,それぞれ変異酵素のX線結晶構造から見いだされた活性中心キャビティ―の周辺に存在するポケットについては,本酵素反応に影響しないことが確認された。また,変異酵素PECPS Asn199L, Asn199Fについては,それぞれ35%,56%の酵素活性の低下が確認された。これらの結果は,野生型酵素のX線結晶構造と4-ヒドロキシフェニルプロピオニルCoAを用いたドッキングシミュレーションで示されたAsn199の側鎖とリガンドとの水素結合が重要であることを示唆した。
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