研究課題/領域番号 |
20K16034
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
飯坂 洋平 東邦大学, 薬学部, 助教 (40770425)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | シトクロムP450酵素 / 多段階酸化型P450 / 生合成 / マクロライド系抗生物質 / 天然物 / 反応制御 |
研究実績の概要 |
シトクロムP450酵素RosCは放線菌Micromonospora rosaria IFO 13697が生産するrosamicinの生合成過程で基質同一部位のヒドロキシ化、アルコール酸化、アルデヒド酸化の3段階の酸化反応を触媒する。先行研究では、アルコール酸化の触媒活性のみが低下したP107S/V277A変異体とアルコール酸化及びアルデヒド酸化の触媒活性が低下したP107S/L176Q変異体を得た。そこで本研究では、野生型と変異体の立体構造と酵素機能の比較解析に基づくRosCの多段階酸化反応機構とその制御機構の解明を目指した。 本年度はまず、RosC野生型と変異体の立体構造解析に向けて大腸菌による異種発現及び精製工程を確立し、結晶化条件をスクリーニングした。先行研究及び二次構造予測からN末端側のアミノ酸残基が障壁となる可能性があったことから、N末端側のアミノ酸残基を異なる長さで削った3種類の野生型RosCを精製し、スクリーニングに供した。その結果、削ったアミノ酸残基数に依存して良質な結晶が得られた。現在、スクリーニング結果を基に、結晶化条件の最適化を進めている。 次に、酵素機能解析のために、精製したRosC野生型と変異体を用いてシトクロムP450酵素の基質結合時のスペクトル変化に基づく基質親和性を評価した。野生型と変異型の各rosamicin類に対する解離定数を比較したところ、顕著な差は認められなかった。このことから、アルコール酸化やアルデヒド酸化の触媒活性が低下した変異体は野生株と同等の基質結合能を有するにもかかわらず、その活性を低下させることが明らかとなった。 また、基質同一部位を多段階修飾する放線菌由来のシトクロムP450酵素に関する最新の研究報告を総説としてまとめ、国際学術雑誌で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
RosC野生型及び変異体の精製工程がスムーズに確立できたことで、結晶化検討やin vitroでの解析に供する精製試料が随時準備できる状態になった。結晶化のスクリーニングも困難となることが予測されたが、N末端側のアミノ酸残基を削ることにより結晶化の条件を見出すことができた。ただし、アミノ酸除去によるRosCの機能への影響については留意しながら検討を進める。 酵素機能解析は当初の計画では、in vitro反応によるRosC野生型と変異体の酵素反応速度論的解析を予定していたがほとんど反応が進まなかった。これは市販の電子伝達タンパク質がRosCと効率的に相互作用しなかったためと考えられた。また、多段階反応での反応速度論的解析が困難であると判断し、スペクトル変化を利用した基質親和性の評価を実施した。これにより、変異体の触媒活性の変化が基質結合能には起因しないことを示すに至っている。
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今後の研究の推進方策 |
結晶化条件の最適化を図り、RosC野生型の結晶構造解析を行う。基質を1回のみ修飾する一般的なシトクロムP450酵素と立体構造を比較し、多段階酸化修飾を可能とするRosCに特徴的な構造を検証する。また、RosC野生型で確立した結晶化条件を基に、P107S/V277A変異体とP107S/L176Q変異体についても結晶構造解析を実施し、2段階目以降の触媒活性が低下する要因を立体構造の側面から探求する。各結晶構造が得られ次第、基質となるrosamicin類との共結晶構造の取得を目指す。 酵素反応速度論的解析については、市販の電子伝達タンパク質の代替として、シトクロムP450酵素融合型電子伝達タンパク質を用いる。RosCと電子伝達タンパク質を融合発現させたin vitro反応系を構築し、野生型と変異型の詳細な酵素学的評価を行う。
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