研究実績の概要 |
血液脳関門(BBB)の克服は、中枢神経系疾患に対する創薬の最大の課題である。BBBには薬物を積極的に取り込むトランスポーター(輸送体)の存在が多く報告されており、その利用により効率的な薬物の脳内デリバリーが期待されるが、関与する輸送体分子の実体は同定されていない。これは、従来の対象薬物の特徴から輸送体を推定する限定的手法では、輸送体分子の同定は困難であることを意味する。令和4年度では薬物輸送体を標的としたsiRNAライブラリーを用い、BBB取り込み輸送体を同定を試みた。検討薬物を絞り込むため、薬物の脳移行性の指標であるKp,uu,brain値および薬物の分子量を文献調査し、Kp,uu,brain値が1を超える薬物を20種見出した。これら薬物のhCMEC/D3細胞における温度依存的な取り込み試験を行い、37度と比較し4度において取り込みの低下がみられた薬物10種を絞り込んだ。見出されたこれらの薬物を用いて輸送体標的siRNAライブラリーを用いた取り込みスクリーニング試験を行った結果、aripiprazole取り込みに対し、2種のsiRNA処置によりhCMEC/D3細胞への取り込みが25%以上低下した。このうち、OCTN2を過剰発現させたXenopus oocyteを用いて薬物の輸送活性を評価した結果、OCTN2がaripiprazoleの輸送活性を示した。さらにaripiprazoleのhCMEC/D3細胞への取り込みはOCTN2阻害剤であるカチオン性薬物により阻害され、OCTN2がaripiprazoleの脳移行に関わる取り込み輸送体であることが示唆された。
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