研究課題/領域番号 |
20K16040
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研究機関 | 浜松医科大学 |
研究代表者 |
柴田 海斗 浜松医科大学, 医学部附属病院, 薬剤師 (00857055)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | セツキシマブ / 糖鎖修飾 / N型糖鎖構造解析 / 固相化パパイン / フーリエ変換型質量分析計 / 血清中濃度 / 皮膚障害 / 頭頸部がん |
研究実績の概要 |
抗ヒト上皮成長因子受容体(EGFR)抗体薬のセツキシマブは、大腸がん・頭頸部がんに有効な治療薬だが、抗腫瘍効果の不十分な患者や重篤な皮膚障害を伴う患者が一定数存在する。本研究では、頭頸部がん患者を対象に、セツキシマブの血中動態と糖鎖修飾を解析し、それらと臨床効果との関連性、および血中動態・糖鎖修飾に及ぼす患者背景の影響を明らかにすることを目的としている。 令和2年度において、ヒト血中セツキシマブのN型糖鎖構造解析法の新規確立のために、前処理方法および分析条件の検討を行った。前処理方法の検討として、ヒトEGFRを結合させた磁気ビーズを用いてヒト血清からのセツキシマブの分離精製を行ったが、その抽出率が40%以下と不十分であった。セツキシマブの糖ペプチドへの断片化に関して、研究計画段階では固相化トリプシンを使用する予定であったが、前処理工程をより簡便化・迅速化する目的で固相化パパインを用いた遠心消化を行った。パパイン消化後のFabおよびFcフラグメントに対して、逆相液体クロマトグラフィー(HPLC)のグラジエント溶出を用いて各フラグメントの分離を行い、フーリエ変換型質量分析計を用いて測定を行った。測定されたデコンボリューションマススペクトルの結果から、解析対象であるN型糖鎖が結合したFcフラグメントが同定され、ガラクトース残基の結合数が異なる同位体ピークを検出した。しかしながら、検出されたピークの強度が低く、現在の測定条件では臨床検体を用いた分析は困難であると考えられた。 これまでに我々は頭頸部がん患者におけるセツキシマブの血清中濃度を評価しており、その有害作用との関連性に関する追加の解析を行った。血清中セツキシマブ濃度は、皮膚障害およびその治療内容と関連しており、セツキシマブ濃度の上昇は皮疹の重症化およびその症状緩和に使用される外用ステロイド剤のランクアップに寄与していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和2年度において、ヒト血中セツキシマブのN型糖鎖構造解析法の確立を到達目標に設定したが、実臨床に適用可能な段階までは至らず、前処理方法および分析条件の最適化が必要であると考えられた。前処理方法に関して、ヒト血清からのセツキシマブの特異的な分離精製が不完全であったため、ヒトEGFRと磁気ビーズおよびセツキシマブとの結合条件を最適化する必要がある。セツキシマブの糖ペプチドへの断片化に関して、固相化パパインを用いた遠心消化により、FabおよびFcフラグメントの生成は確認された。しかしながら、フーリエ変換型質量分析計を用いたフラグメントの測定に関して、得られたピークの強度が低く、臨床検体の分析には感度不十分であった。その理由として、本研究で取り扱う抗体フラグメントの質量は約50,000Daと高分子であり、これまでに我々が分析の対象とした1,000Da程度のフラグメントとはHPLC条件や質量分析条件が異なるため、それらの最適化が困難であった。固相化パパイン消化で得られる高分子フラグメントの分析が最適化できない場合には、より低分子のフラグメントを生成する固相化トリプシン消化への変更を検討する必要がある。前処理方法および分析条件が最適化された後、本測定法の臨床検体への適用性を確認する予定である。 臨床試験の準備状況に関して、浜松医科大学の臨床研究倫理委員会に新規課題として申請を行い、実施に関する承認を受けた。また、研究対象患者の診察を行う診療科との打ち合わせの下、患者登録および臨床検体の収集体制を確保している。 頭頸部がん患者における血清中セツキシマブ濃度と有害作用との関連性に関する解析では、セツキシマブ濃度は皮疹の重症度およびその症状緩和に使用される外用ステロイド剤の強度と関連することが明らかとなった。この研究成果に関しては、がん化学療法の専門英文誌への論文報告を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
血中セツキシマブのN型糖鎖構造解析法の確立に関して、前処理方法および分析条件の更なる検討を行う。ヒト血清からのセツキシマブの分離精製では、ヒトEGFRや磁気ビーズの試薬量、結合に必要な反応時間・反応温度などの最適化を行う。セツキシマブの糖ペプチドへの断片化には固相化パパイン消化を利用するが、その分析条件が最適化できない場合、還元・アルキル化と固相化トリプシン消化を用いたフラグメント化を検討する。フーリエ変換型質量分析計における抗体フラグメントの測定に関して、評価対象となる糖鎖修飾を特異的に解析するソフトウェアの導入を検討する。確立したN型糖鎖構造解析法に対しては、特異性、感度、抽出率、日内・日間変動などの各バリエーションを実施するとともに、治療に用いるセツキシマブ点滴製剤およびセツキシマブ投与後の臨床検体への適用性を評価する。 患者登録に関して、患者情報とともに臨床検体の収集を引き続き行う。得られた臨床検体に対して、N型糖鎖構造解析法を用いてセツキシマブの糖鎖修飾を評価する。血中セツキシマブ濃度の評価に関して、既に確立しているLC-MS/MS法を用いて引き続き測定を行う。 セツキシマブ治療における臨床効果の判定に関して、治療効果および有害作用の評価を引き続き行う。セツキシマブの糖鎖修飾と血中濃度が評価された症例については、中間解析として臨床効果との関連性に関する解析を行う。これらの評価・解析により、セツキシマブの血中動態および糖鎖修飾の定量的評価に基づいた臨床効果の個人差解明を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費として計上していた経費の実支出金額が予定金額よりも少なかったため、次年度使用額が生じたと考えられる。また、旅費として計上していた経費の実支出がなかったことも次年度使用額が生じた理由に挙げられる。 次年度使用額の使用計画に関して、血中セツキシマブのN型糖鎖構造解析における物品費として計上することを考えている。具体的には、前処理方法の検討において使用するヒトEGFRや磁気ビーズの追加購入、フーリエ変換型質量分析計における抗体フラグメントの解析に使用するソフトウェアの購入がある。特に、解析ソフトウェアに関しては、助成金申請時点での購入予定は無かったため、次年度使用額による購入が可能であると考えている。解析ソフトウェアを導入することで、セツキシマブの配列データベース情報をもとに、そのN型糖鎖修飾の解析が高精度かつ簡易的に実施可能であると期待される。
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